研究課題/領域番号 |
21J13651
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 幸輝 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 高エネルギー重イオン衝突反応 / クォーク・グルーオンプラズマの電気伝導性 / 相対論的抵抗性磁気流体 / 高強度磁場下のQCD物質のダイナミクス |
研究実績の概要 |
本年度では高エネルギー重イオン衝突実験で生成される高強度磁場の影響を解析するために必要な相対論的抵抗性磁気流体シミュレーションコードを開発した。さらに、高エネルギー重イオン衝突実験の解析を開発したコードに基づいて行うため、流体方程式の初期条件の生成を行った。これらの模型に基づき、相対論的重イオン加速器実験である金-金衝突実験及び銅-金衝突実験の解析を行った。この研究では、これまでの解析では取り入れられてこなかった衝突初期に生成される電場のエネルギーに注目して解析を行った。電場のエネルギーは流体の電気抵抗を考慮に入れることによってはじめて考慮することができる。この点で相対論的抵抗性磁気流体を用いることは非常に独創的であるといえる。実際に解析の結果から非対称系である銅-金衝突実験では金-金衝突実験に比べてクォーク・グルーオンプラズマ中で電場の値が非常に大きいことに起因して実験の観測量であるハドロンの運動量分布に影響を与えることを明らかにした。この結果はクォーク・グルーオンプラズマの電気伝導性を明らかにする上で非常に有用な結果である。さらに、この結果を日本物理学会で発表することにより、より深い議論を行うことができた。この議論により、重いクォークが電磁場のダイナミクスを検出する上で有用なのではないかという結論を得ることができた。今後の研究では、重いクォークやレプトン対、熱的光子などの解析も視野に入れて解析を行っていく予定である。これからクォーク・グルーオンプラズマの物性的性質についてより深い知見を得ることができると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画では電気伝導度を無限大の極限をとった理想磁気流体の解析のみを行う予定であったが、電気伝導度を有限の値で与えることのできる相対論的抵抗性磁気流体による解析を可能とするシミュレーションコードの開発に成功した。これにより。従来の計画では到達することのできなかったクォーク・グルーオンプラズマの物性量である電気伝導度の定量的解析にアプローチすることができるようになった。それだけではなく、実際に高エネルギー重イオン衝突実験を解析するために必要な初期条件の開発にも成功している。これらの模型を用いて実験での観測量であるハドロンの運動量分布についても解析が完了している。この結果からハドロン分布の電気伝導度依存性を調べることでクォーク・グルーオンプラズマの電気伝導度を実験的に見積もる手段について議論を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ハドロン分布の運動量分布まで解析が完了しているが、この解析では相対論的電磁流体ダイナミクスで誘起される電荷の寄与を考慮できていない。これらの物理量はハドロンの電荷ごとの解析において非常に重要な役割を担うと考えられる。今後の研究では、ハドロンの状態方程式に電荷の化学ポテンシャルを導入することによって、電か分布を考慮した解析を行う子予定である。この結果は電気伝導度に非常に強い感度を持っていると期待できるため実験で観測可能な物理量からさらに詳細にQCD物質と電磁場の相互作用およびクォーク・グルーオンプラズマの電気伝導度などの物性的性質に迫ることができると考えられる。 高エネルギー重イオン衝突実験では衝突軸垂直方向の角運動量が生成されると考えられる。これらの寄与は従来の初期条件に含まれていない。これらの媒質の角運動量と電磁場の相互作用を調べることは非常に重要な課題である。特に前述の電荷分布には非常に大きな影響を与えることが期待できる。今後の研究では初期条件に原子核の持つ角運動量を取り入れる方法を開発し、高エネルギー重イオン衝突実験を解析する予定である
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