研究課題/領域番号 |
21J13652
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 晃大 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | ヒト立位姿勢制御 / 脳波 / ベータ帯域同期 / パーキンソン病 |
研究実績の概要 |
現在までに,パーキンソン病(PD)患者における姿勢制御メカニズムの変容を調べる際の基準となる健常者を対象に床面摂動条件に加え,静止立位条件の姿勢動揺と脳波の計測・解析を行った.床面摂動条件においてはトレッドミルを用いて加えた摂動に対する姿勢応答終盤に脳波のベータ帯域同期が3秒ほど持続して現れることを新規に発見した.これは我々が提唱している姿勢の間欠制御モデルのシミュレーションを行った際に姿勢状態のモニタリングに基づいて足関節の能動的制御トルクのオン・オフ切り替えの意思決定が重要となるタイミングと一致する.ベータ帯域は運動野と姿勢応答などの行動の選択に重要な役割を果たす大脳基底核のネットワークの活動と関連することが報告されており,発見したベータ帯域同期は間欠制御を行う際の脳活動を反映している可能性がある.この成果は論文にまとめてFrontiers in Systems Neuroscienceにて発表した.ヒト身体は静止立位時においても常に揺らいでおり,微小な転倒が繰り返し発生している.2021年度に実施した静止立位時の計測から微小転倒後にもベータ帯域同期が現れることを発見した.摂動による転倒と微小転倒という2つのスケールの異なる転倒後にベータ帯域同期が現れることはこの脳活動が姿勢制御の脳内メカニズムを反映していることを示唆している.この成果は2022年度内に論文にまとめ国際論文誌に投稿する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト立位姿勢制御と神経疾患による変容の脳内メカニズムを明らかにするためには,健常者とPD患者において姿勢動揺と脳活動の計測・解析を行うことが必要である.これまでに健常者を対象に床面摂動条件に加え,静止立位条件の姿勢動揺と脳波の計測・解析を行い脳波のベータ帯域同期が両条件で現れることを発見した.現在明らかとした健常者の姿勢制御に関わる脳活動は,次に行うパーキンソン病患者の脳波計測・解析における基準として重要である.
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今後の研究の推進方策 |
今後PD患者において健常者と同様の計測と解析を実施する予定である.PD患者は中脳ドーパミン細胞の変性により大脳基底核の機能に障害を持つ.データ同化を用いた研究からPD患者で見られる姿勢の剛直化が能動的制御の間欠性の喪失によって説明できることが明らかになりつつある.この制御の間欠性が喪失していると考えられるPD患者においては,姿勢のモニタリングに基づく制御トルクの切り替えの意思決定が行われずベータ帯域同期が減弱することが予想される.この予想の検証は神経疾患による姿勢制御の脳内メカニズムの変容に関して新たな知見を与え,PD患者の重症度の定量化や治療方法の開発に寄与すると考えられる.
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