本研究課題の目的はヒト立位姿勢の神経制御メカニズムと神経疾患によるその変容機構の解明である.具体的には我々が提唱している間欠制御という非連続的な制御姿勢制御を作業仮説とし,間欠制御に必要な脳内情報処理により生じることが予想される皮質脳活動の発見を目指した.目的達成のため1.「床面移動外乱時の姿勢動揺と脳波の計測・解析」,2.「静止立位時の姿勢動揺と脳波の計測・解析」を実施した.1.に関しては摂動後に間欠制御の脳内情報処理を反映していると考えられる脳波のベータ帯域脱同期と同期を発見し,その成果を論文にまとめてFrontiers in Systems Neuroscienceにて発表している.2.に関しては本年度20名の健常者の計測・解析を完了した.静止立位中,ヒト身体は常に微小な転倒と回復を繰り返している.間欠制御では転倒時に中枢神経系による姿勢の制御を行い,回復時には身体の機械力学的な性質を利用して受動的に姿勢を回復させる.この微小な転倒と回復に注目して解析を実施した結果,微小転倒時に脳波ベータ帯域で脱同期が,微小回復時にベータ帯域で同期が現れることを発見した.類似の脳活動として随意運動とその停止に伴うベータ帯域の脱同期と同期がよく知られており,ベータ帯域同期は運動の抑制を反映していると考えられる.発見した脳活動はヒトが従来考えられてきた連続的な制御とは異なり,姿勢制御の開始と停止を繰り返す非連続な制御を行っていることを示唆する.この成果は姿勢と歩行研究会とMotor Control研究会で発表し,現在国際論文誌への投稿準備が完了したところである.以上よりこれまで明らかとなっていなかった立位時の姿勢制御に伴う脳活動を発見し,ヒトが非連続的で間欠的な制御を行っていることを支持する結果が得られた.本課題で明らかとなった健常者における姿勢制御メカニズムは神経疾患による姿勢制御の変容メカニズムを研究するための基盤となる.
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