研究課題/領域番号 |
21J13680
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土居内 大樹 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | C-H酸化 / 位置選択的C-H酸化 / ルテニウム触媒 / 非ヘム型触媒 / 過酸化水素 / 省資源化 |
研究実績の概要 |
炭素-水素(C-H)結合は、有機化合物中に多種多様に存在する安定な結合である。このC-H結合を直接変換するC-H酸化反応は、合成工程を大幅に削減する極めて効率的な手法である。しかし、既存のC-H酸化反応は、反応位置選択性と触媒耐久性の両面を兼ね備えた実用的なものはなく、新たな方法論の導入が求められている。そこで、我々は、新たに非ヘム型ルテニウム-ビス(2-ピリジルメチル)グリシンアミド[Ru(bpga)]錯体を開発し、同錯体が天然物を含む広範な基質のC-H結合を高い位置選択性にて酸化する有効な触媒となることを見出した。しかし、同反応では、原子効率の低い超原子価ヨウ素試薬を用いるため、省資源化の観点から改善の余地が残されていた。そこで、原子効率が高く環境調和性に優れた過酸化水素の適用化を行った。 以前の反応条件にて、超原子価ヨウ素試薬を過酸化水素水に置き換えたのみでは、ほとんど反応が進行しなかった。しかし、フルオロアルコール、特に、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒中で、過酸化水素を共酸化剤として利用できる可能性が示された。更に、脱水剤として硫酸マグネシウムを添加することで、反応性を大きく改善することに成功した。同条件では、結合解離エネルギー(BDE)が比較的高く不活性なメチレンのC-H結合も、酸化可能である。また、触媒の塩素配位子をカルボキシレートに置き換えることで、本反応の反応性を飛躍的に向上する新たな知見を得ている。このように、原子効率に優れた過酸化水素を実用的にC-H酸化反応に利用することに成功し、同反応における省資源化を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実用的なC-H酸化反応の開発において、原子効率の改善は重要な課題の1つである。本研究では、既に、反応の位置選択性、広範な基質適用、および触媒分子の高耐久化を達成しており、Ru(bpga)錯体を触媒に用いるC-H酸化反応の実用化において、原子効率および環境適応性に優れた過酸化水素の適応は、重要な取組みになっている。 そこで、過酸化水素の利用に向け、反応条件の至適化を進め、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒に、脱水剤として硫酸マグネシウムを添加することで、超原子価ヨウ素試薬を用いる際と遜色ない反応性を引き出すことに成功した。この結果は、当初目的とした原子効率を達成した重要な知見である。 さらに、過酸化水素の活性化の効率化を目的とし、Ru(bpga)錯体の高酸化状態をより安定化すると共に過酸化水素の金属オキソ種への分解を促進すると考えられるカルボキシレート配位子の導入法の開発を進め、得られた錯体の反応活性評価を行い、反応速度が10倍以上促進されることを見出した。 これらの知見は、原子効率に優れた過酸化水素の共酸化剤として利用法を見出しただけでなく、カルボキシレート配位子によって自在に反応性を操る新たな展開が可能なことを示唆しており、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までの検討では、Ru(bpga)錯体を触媒に用いたC-H酸化反応の開発において、優れた位置選択、触媒の高耐久性、および過酸化水素利用による高原子効率化を達成した。しかし、基質本来の反応性を凌駕する触媒制御による反応位置選択性については達成できていない。よって、2022年度は、新たな反応位置選択性を誘起する方法論の開発を進める。 一般的に有機化合物中の各C-H結合の酸化反応に対する反応性は、その結合の炭素原子の電気化学的性質を反映した結合解離エネルギー(BDE)とその周囲の嵩高さに決まっている。このC-H結合の反応性を凌駕する位置選択性の誘起には、対象のC-H結合の近傍の構造に合わせた反応空間の構築とそのBDEに合わせた酸化力の調節を行うことが望ましい。これに対して、我々のRu(bpga)錯体を用いたC-H酸化反応は、反応系中のカルボン酸のpKaに応じて反応性を制御することが可能であり、更に、カルボキシレート配位子として用いることで過酸化水素の活性化に強く影響することが明らかとなっている。 そこで、本年度は、i)pKaの異なるカルボン酸添加条件下で、BDEの異なるC-H結合の酸化を検討し、BDEとカルボン酸のpKaとの相関関係を明らかにする。また、ii)カルボキシレート配位子を有する触媒を各種合成し、その電気化学的性質と反応速度との相関に関しても情報を収集する。づづいて、iii)構造的に異なるカルボキシレート配位子を有する触媒を各種合成し、構造が位置選択性に与える影響を調査する。さらに、iv)それらの触媒の単結晶化を行い、反応空間の構造と位置選択性に関する相関に関しても調査する。 i)-iv)の情報をもとにして、様々な基質において、適切な酸性度を有するカルボン酸と適切な反応空間を有する触媒をそれぞれ選択することで、触媒制御による位置選択性の誘起法を確立させる。
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