C-H酸化反応は、有機化合物中に多種多様に存在する炭素-水素(C-H)結合を、酸素官能基へと直接変換する合成化学的に有用な反応である。しかし、多種多様なC-H結合の酸化には、位置選択性、基質適用範囲、触媒耐久性、原子効率、反応速度などに課題が存在し、それらを解決する新たなC-H酸化法の開発が必要となっている。本研究者は、独自に非ヘム型ルテニウム錯体を開発し、優れた位置選択性、幅広い基質適用範囲、高い触媒耐久性を有するC-H酸化を達成した。しかし、酸化剤に原子効率の低い高原子価ヨウ素試薬が必要であった。そこで、触媒の軸配位子を塩素配位子からカルボキシレート配位子へと置き換え、原子効率に優れた過酸化水素を酸化剤に利用することに成功した。 前述の高原子価ヨウ素試薬を用いた反応は、カルボン酸によって反応速度が大幅に加速されることが観測されており、同効果はカルボン酸がオキソ種へと水素結合することが鍵となっていると考察した。同考察に基づき、触媒分子内にカルボン酸部位を導入すれば、分子内水素結合によってより、効率的にオキソ種を活性化でき、ジカルボン酸ならば、過酸化水素を活性化するカルボキシレート配位子とオキソ種の活性化の二つの効果を同時に満たすと考えられた。そこで、各種ジカルボン酸を配位子として精査し、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸を用いた際に、大幅な反応速度の加速が起きることを見出した。特に、マレイン酸を用いることで、同分野で最大の触媒回転頻度である毎時600回転を達成した。本手法は、様々な官能基を有する基質のC-H酸化、不活性なメチレンC-H結合の酸化、および、複雑な天然物・医薬品誘導体の高位置選択的C-H酸化を可能とした。このように、本研究によって、真に実用的なC-H酸化法を達成した。また、カルボン酸によるオキソ種の活性化は、オキソ種が関わる化学を更に発展させる重要な知見である。
|