研究実績の概要 |
本研究は、漱石とドストエフスキーの文学内実における類似性をドストエフスキーの影響というよりは、両作家が生きた時代の特徴、それから近代文明に対して共通してみられる危機意識によって生まれたものであることを明らかにしようとするものである。 2021年度はまず新型コロナウイルスによる孤立化と疎外感の問題とその解決方法をドストエフスキー文学を通して考察を行い、その内容を論文にまとめ、ヴェリコ・タルノヴォ大学(ブルガリア)の紀要に投稿した。次に、漱石の『三四郎』における青年像に着目し、疎外感の問題も含めて分析した。8月のThe 10th ICCEES World Congress(カナダ)で漱石『三四郎』とドストエフスキー『未成年』を取り上げ、両作品における青年像と都市空間について報告を行った。東京とペテルブルグに上京した三四郎とアルカージイに託された近代化の道を歩むロシアと日本のアレゴリの類似性とともに、「現実世界」として描かれる東京と、幻想に近い「夢」の世界として描写されるペテルブルグに込められた表象の相違も明らかにした。9月のThe 8th International Conference “Japan: Pre-modern, Modern, and Contemporary”(ルーマニア)で、漱石文学全般における日本近代化の象徴としての汽車・電車とその意味の変遷について報告した。このテーマについては今後ドストエフスキー文学における汽車・電車の表象と比較分析を行う予定である。また、『ユーラシア研究 第65号』に「漱石からみたドストエフスキー―漱石はドストエフスキーをどう読んだか―」という論文を投稿し、漱石におけるドストエフスキーに対する認識がどのように変わっていったのかを解明した。
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