研究課題/領域番号 |
21J13845
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森下 和浩 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 液液相分離 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
近年,生体高分子により形成される液滴が多岐に亘る細胞機能において役割を持つことが報告されてきており,その最も重要な性質の一つに「流動性」が挙げられる.これまで,神経変性疾患等で遺伝子変異による液滴の流動性低下が細胞毒性線維の形成に繋がるといった知見が得られつつあるように,生理学的,病理学的条件下における内因性の流動性制御因子の解析は勢力的に行われてきた.一方で,液滴が存在する系や環境の変化といった外因性の流動性制御機構については精製タンパク質を用いたin vitroでの解析に留まることが多く,細胞内や生理的条件下における影響は不明な点が多く残る.そこで本研究では細胞内環境を変化させる生理学的コンテクストとして物理化学ストレスに着目した.pH変化,温度変化,浸透圧変化等の物理化学ストレスは細胞内環境を変化させ,種々の細胞内液滴を形成させることが知られる.その中でも近年,高浸透圧ストレスが迅速かつ容易に細胞内液滴,細胞内凝集形成を惹起することが報告されてきており,液滴の機能解析において高浸透圧ストレスがツールとして利用されてきている.そこで本研究においては高浸透圧ストレスというコンテクストでの液滴の外因性流動性制御機構の解明を試みた. 当研究室ではストレス応答性キナーゼであるASKファミリーの解析に注力しており,中でも浸透圧ストレス応答性のASK3が高浸透圧ストレス後迅速に液滴を形成し,その液滴形成が細胞の浸透圧ストレス応答に必要であることを報告した.そこで現在はASK3をモデルタンパク質とした解析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は高浸透圧ストレス下で液滴を形成するストレス応答性キナーゼASK3をモデルタンパク質として解析を進めており,高浸透圧ストレス下で変化する細胞内環境の一つであるナトリウムイオン濃度に着目した.細胞内の塩濃度は定常状態においては一定に保たれており,それを生理学的条件下で変化させることは難しいとされている.しかし,高浸透圧ストレスという環境下においては細胞外から細胞内へのナトリウムイオンの流入が起こることから,細胞外ナトリウムイオン濃度の操作やナトリウムイオンの流入を担うチャネルの活性調節により,ストレス応答という生理学的なコンテクストで細胞内ナトリウムイオン濃度を変化させて,高浸透圧ストレス下で形成される液滴の物性への影響を評価することが可能になった.結果として細胞内ナトリウムイオンがASK3液滴の流動性維持に寄与することを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から,細胞内ナトリウムイオン濃度が低下しASK3液滴が凝集化した条件においては,ASK3の高浸透圧ストレス応答に支障を来すことが明らかになった.今後はASK3液滴の流動性がASK3の機能に寄与する機構を細胞生物学的な実験と共にin silicoでの計算生物学的な手法と合わせて明らかにしていく予定である.また現在,ASK3に留まらず高浸透圧ストレス下で形成される複数の液滴の流動性や凝集形成が細胞内ナトリウムイオン濃度により制御されているという結果が得られつつあり,今後の展望として細胞内ナトリウムイオンが細胞内液滴の流動性制御の共通原理の一つとなり得ることが期待される.最終的にはin vivoにおいても,生活習慣や疾患に起因する生体内でのナトリウムイオン濃度の変化が細胞内液滴の流動性や凝集形成に影響を与えるかを検証していく予定である.
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