今年度は活動銀河核におけるポーラーダストの存在を考慮した赤外線スペクトルモデルの開発とその観測データへの適用に取り組んだ。活動銀河核の構造は中心の超巨大ブラックホールと降着円盤、それらを取り囲むトーラスから成る。近年の多波長観測結果は、これらの構造に加えて極域に広がるポーラーダスト成分の存在を示唆する。実際、Ogawa et al. 2021でポーラーダストからの放射の影響により赤外線ではX線観測と比べ、トーラスの厚みを過剰評価してしまうことを示した。X線観測結果と矛盾なく観測データを説明するためには、ポーラーダストを考慮したモデルが必要であるが、そのようなモデルは発展途上だった。 そこで理論グループと協力して最新の流体計算結果に沿った描像に基づき、ポーラーダストを含む活動銀河核トーラスからの赤外線スペクトルモデルを開発した。クランピートーラスにポーラーダストを導入したダスト分布をもとに既存の輻射輸送計算コードを用いて赤外線のスペクトルエネルギー分布を計算し、ポーラーダストの開口角、光学的厚み、トーラスの幾何的厚み、光学的厚みをフリーパラメータとしたテーブルモデルを作成した。作成したモデルによって近傍の活動銀河核の観測データをX線観測の結果と矛盾なく再現できることを示し、エディントン比の小さい天体ではポーラーダストが発達していないという、ポーラーダストが輻射圧駆動のアウトフロー起源であることを支持する結果を得た。本成果は活動銀河核の構造の物理起源を解明する上で非常に重要な意義があると言える。特に、ポーラーダストを考慮することで、活動銀河核の赤外線放射を適切に説明することができるようになった点は非常に重要である。本成果をまとめた論文を執筆中であり、ApJに投稿予定である。
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