研究課題/領域番号 |
21J13956
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山下 駿野 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 限定合理性 / ナッジ / 実時間最適化 |
研究実績の概要 |
サイバーフィジカルソーシャルシステムを構成する各要素およびその結合系に関して,2021年度は以下の3つのことに取り組んだ. まず,先行研究で扱った人間の限定合理性モデルと,具体的な意思決定問題の関係性を調べた.特に,災害発生時の避難開始選択問題に注目し,限定合理性が集団による避難行動へ与える影響をシステムの受動性の観点で明らかにした.また,2020年度までに構築したナッジメカニズムを本問題に適用した場合の,避難誘導の安定性条件を理論的に明らかにした.上記の結果は,国内学術論文誌にて既に発表済みである. つぎに,先行研究で構築した,限定合理的意思決定者に対するナッジメカニズムの改善を行った.2020年度までで構築したナッジメカニズムでは,意思決定者への入力信号の有界性が保証できないという課題があった.2021年度に開発した手法により,この課題をシステムの受動性に基づき理論的に解決することができた.本結果は,制御分野の国際学術論文誌に投稿中である. また,仮想空間と物理空間の結合系に関して,オフィスビル内の照明システムを対象とした最適制御手法の構築に取り組んだ.ここでは,現実の建物環境を模擬した実時間照明シミュレータを用いて,物理空間と仮想空間の結合構造とその性能に関して検証した.さらに,制御バリア関数と呼ばれる制御技術を新たに追加することで,最適制御手法の制約保証性能を改善することを確認した.本結果は,現在制御分野の国内学術論文誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は,(i)仮想空間・物理空間・人間社会の結合形態の一般化,(ii)各要素を結合したシステムの性能解析,(iii)サイバーフィジカルソーシャルシステムの簡易的なシミュレータ構築を目標とし,それぞれの計画を部分的に達成した. まず,(i)については特に人間社会のシステム特性に焦点を当て,避難行動における集団意思決定と,2020年度から実施した電力市場経済における消費者の意思決定の調査過程で,具体的な社会問題における人間集団の入出力信号の性質を明らかにした.また,(ii)に関しては仮想空間と人間社会の結合系である,ナッジメカニズムの性能を理論的な側面から改善した.(iii)については照明最適制御問題を対象として,仮想空間と物理空間を統合的に扱うシミュレータを作成し,その上で仮想空間における最適化処理の性能向上を達成した. (i)-(iii)それぞれで具体的な問題を取り扱うことで,各要素における性能改善と新たな課題解決を達成することができた.一方で,当初計画していた,3つすべての要素を統合的に取り扱った結合形態の一般化と,その検証環境構築には至っておらず,引き続き調査を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の施策としては,前年度の研究過程で獲得した知見をもとに,CPSS(サイバーフィジカルソーシャルシステム)全体の理論的な解析と,当初予定してた電力・エネルギー管理システムへの応用およびその検証に取り掛かる. まず,CPSSの全体構造に焦点を当てる.特に,前年度で明らかにした,仮想空間・物理空間・人間社会の各要素間における入出力信号の性質に注意して,CPSS全体としての相互作用,および人間意思決定の影響を動的システム論の観点から解析する. 上記研究と並行して,電力・エネルギー管理システムに注目したCPSSの構築にも取り組む.前年度に取り組んだ,電力市場経済と照明制御に関する研究過程でCPSSとしての性質を部分的に明らかにした.今年度は,これらの結果を統合する形で限定合理性を考慮したエネルギー管理システムの構築を目指す.
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