本研究では、カルボランの二十面体構造に着目し、12頂点から任意の3か所に置換基を導入することで、すべての空間を網羅的に探索できる5パターンの3置換カルボランを構想し、実証を行った。 第一に、前例のないDOSを志向した3置換カルボランの合成を、o-、m-、p-カルボランの炭素、ホウ素からなる12頂点の反応性の違いを駆使して達成した。さらに、すべての骨格パターンにおいて、その絶対的な置換基配置を単結晶X線構造解析により決定した。今回、確立した合成法に基づけば、側鎖にあたる置換基を簡便かつ自由に変換できるため、SAR研究に大いに役立つ。また、系統的に合成した42化合物のPMI解析により、5パターンの骨格は、それぞれで異なる多様な分子形状をもつことを明らかにした。 第二に、新たな創薬標的であるPPIを狙った生物活性評価を行い、新発見の活性を有する化合物を含めて、27の活性化合物を見出すことに成功した。あらゆる空間を探索できるカルボラン化合物のスクリーニングから得られる網羅的なSAR解析は、医薬品開発の初期段階において、早期に有望な分子を発見することに役立つと期待される。 また興味深いことに、HIF-1α/p300やRABV N-タンパク質のPPI阻害活性を有する化合物を見出すだけなく、これまでに報告されたことのないRABVの増殖を亢進する化合物を発見した。これらの結果から、3置換カルボランが未だかつてないPPI制御化合物の設計に有望であることが示された。 このように、本研究で構想から実証まで行った5パターンの3置換カルボランを用いて、すべての方向を満たすように3次元的に置換基を配置できる分子を系統的に設計する戦略には、他の創薬アプローチでは得られなかった新たな生物活性分子を創出するという大きな可能性が秘めていると確信している。
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