研究課題/領域番号 |
21J14011
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
真辺 幸喜 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 冷却原子気体 / 量子シミュレーション / Bose-Fermi混合原子気体 / 強相関量子多体系 / 量子少数多体系 / 超流動 |
研究実績の概要 |
本年度は,(1)冷却Bose-Fermi混合原子気体における複合Fermi分子間の有効相互作用,および,(2)同系における熱力学的性質に関する理論研究を行った. 研究(1)は,先行研究(K. Maeda, et.al., Phys. Rev. Lett. 103, 085301 (2009))で提案された量子色力学(QCD)多体系に対する量子シミュレーションのアイディアを発展させた新規な多体強結合理論の構築を目指したものである.本年度は,当該提案で重要な役割を果たす複合Fermi分子(=Bose原子+Fermi原子)間の有効相互作用を,先行研究における近似的議論を越え,新たに拡張した量子少数系理論に基づき厳密に解析した.その結果,先行研究で考慮されていなかった有効レンジパラメータが理論に不可欠であること,また,その値に応じて真空での4体束縛状態形成(=複合Fermi分子×2)が起こり得ることを明らかにした.これらから,先行研究で提案されたQCD量子シミュレーションの適用の限界を指摘した.さらに,これらの要素を考慮した修正シナリオを提案した. 研究(1)の成果は,国内学会2件にて発表済み,次年度は,本研究の成果をさらに発展させ,複合Fermi分子間の相関を取り入れた新規な多体強結合理論の構築を目指す. 研究(2)では,上記量子シミレーションを具体的物性解明に応用すべく,冷却Bose-Fermi混合原子気体の熱力学的性質を研究した.様々な熱力学量を系統的に解析した結果,特に定積比熱の温度依存性において,系の自由度が原子→複合分子へとクロスオーバーしていく(QCDシミュレーションではクォーク→核子へと自由度が移行することに相当)ことを反映した特異な振る舞いが見られることを明らかにした. 研究(2)の成果は,国際学会1件にて発表済みであり,さらに原著論文を執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,冷却Bose-Fermi混合原子気体を用いたQCD量子シミュレーションにおいて重要な役割を果たす,複合Bose+Fermi分子間の有効相互作用を厳密に解析することに成功した(上記研究(1)).本成果は少数系の範囲での解析結果であるが,今後,これを多体問題へ拡張し量子シミュレーションの実現可能性を評価していく上で必須のステップである.特に本研究により,先行研究で議論されていなかった真空レベルでの少数多体束縛状態の存在が明らかになったが,この現象は当該量子シミュレーションの適用範囲に重要な制限を果たすと同時に,量子シミュレーションの問題を離れ量子少数系研究それ自体の観点からも興味深いと考える. 一方,こうした予期せぬ少数系問題の発覚により,研究(1)の方面での多体問題の拡張には若干の遅れが生じている.これを補うため,研究(2)において,多体問題の研究も並行して実施した.研究(2)の定式化は研究(1)で明らかにした4体相関効果を無視した範囲のものではあるが,ここで得られた成果はこうした少数多体相関効果を考慮してもある程度ロバストに成立すると考えられる.また,今後に少数多体相関効果までもが考量された新規理論が完成した際には,こうした効果を明らかにするための良い比較対象として機能すると考えられ,研究(2)も重要な成果である判断する. これらを総合し,研究は概ね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,本年度研究(1)をさらに発展させ,QCD量子シミュレーションを記述する新規な理論構築に取り組む.具体的には,本年度研究(1)により少数問題レベルでの複合Fermi分子間相関が解析できたため,次年度はこれを多体理論に取り入れる方法を模索,(複合分子気体の)超流動転移などの量子多体現象を解析する.その後,構築した理論を数値的に取り扱う計算コードを開発,超流動転移温度を具体的に求めることにより,量子シミュレーションに適した実験条件を理論的に予言することを目指す. また,現時点で既に得られている成果(上記研究(1),(2))について,原著論文にまとめ公表する.
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