研究課題
太陽フレアは、太陽の外層大気であるコロナに蓄積された大量の磁気自由エネルギーが約30分で突発的に解放される爆発現象である。太陽フレアは、コロナ中の捻れた磁力線構造であるフラックスロープの噴出が駆動することが明らかになっている。ゆえに、フレア発生機構の解明には、フラックスロープの形成過程と噴出に至る不安定化メカニズムを理解することが重要となる。 本研究では、フラックスロープに支えられた低温高密プラズマ雲、フィラメントの磁場ダイナミクスを直接観測から診断することで、その力学非平衡化過程を世界で初めて観測的に明らかにする。さらに、観測データを境界条件として、3次元磁場の磁気流体モデリングを行い、数値的にフラックスロープを再現する。観測と数値モデリングの結果から、これまで示唆されてきた理想磁気流体不安定モデルとの比較検討を行う。今年度は、フィラメントの磁場構造を直接観測するための近赤外偏光分光観測装置の開発をおこなった。特に、要求精度(SN比: 10000)を達成するためのデータ較正に注力した。これは次年度以降の本観測で、フレア発生時に噴出するフィラメント磁場のダイナミクスからフラックスロープの不安定化メカニズムの理解に繋がる。加えて、フラックスロープの数値モデリングについては、2021年10月28日に発生したフィラメントの噴出を伴う大規模フレアをターゲットとして解析を行なった。その結果、噴出メカニズムとして理想磁気流体不安定だけでなく、フラックスロープ下部での磁気リコネクションが鍵を握ることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的達成には、観測装置開発と数値モデリングを同時並行で進めることが鍵となる。装置開発は今年度に概ね完了させることができ、データ較正スキームの開発もおおむね順調に進んでいる。次のステップとしては、継続的な観測から突発現象である太陽フレアの検出を目指すことである。また、数値モデリングについては、人工衛星による定常観測データを用いた解析から当初の見込み以上の成果を上げることができた。これは、数値モデリングの次のステップである、本研究で開発した近赤外偏光分光観測装置によって取得されたデータとの比較検討および磁気流体不安定評価に繋がる大きな一歩であると言える。
次年度は、まず本年度開発とデータ較正スキームが完成した近赤外偏光分光観測装置を用いた観測を行う。太陽フレア発生前後のフィラメントを10分程度の時間分解能で数時間継続的に観測を行う。観測データからフィラメント磁場を導出し、噴出にいたるフィラメント磁場のダイナミクスを明らかにする。次に本年度も大規模フレアの解析に用いたコロナ磁場の数値モデリングコードを用いて、フラックスロープの3次元磁場構造を再現し、また磁気流体数値シミュレーションに適用することで噴出に至る不安定かメカニズムおよびフラックスロープの加速メカニズムを理論的に明らかにする。最後に、実際の観測から見られたフィラメント磁場のダイナミクスを数値シミュレーションの結果と比較することで、理論的に示唆された不安定化および噴出メカニズムの検証を行う。
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