(RE)BaCuO(REは希土類元素又はY)等の超電導バルク体は、着磁により磁場を捕捉することで小型な強磁場源となる。このバルク磁石が発生する強磁場を簡便に提供することで、これまで特定の研究施設に限られてきた高磁気力の利用がラボスケールから可能となる。本研究では、高磁気力を真空容器外の開放空間にて提供する「高磁気勾配型超電導バルク磁石(HG-TFM)装置」の提案と実証に着手した。ここで、従来の大型電磁石に匹敵する3000T^2/m程度の磁気力勾配の発生を中間目標とし、実機において種々の反磁性体の磁気浮上現象を確認することで本提案の装置を実証することを目的とした。 電磁界解析ソフトウェアを活用し、所望の磁気力勾配を見込める新規なバルク磁石の磁気構造の提案を行った。本提案によるHG-TFMは、スリット加工を施した円筒バルクをスリット無しの円筒バルクに積層しており、その界面において逆磁場により捕捉磁場を打ち消すことで磁気勾配を向上させる。解析結果では、HG-TFMが発生する最大磁気力勾配が着磁に要する印加磁場強度やバルク磁石の内径に依存して変化することを明らかにした。 解析による知見を元に、円筒状バルク体と補強治具の加工を行い、HG-TFMの実機の製作を行った。着磁実験では4段積層した円筒状バルク体を冷凍機により冷却し、磁場中冷却着磁(着磁温度22 K)により磁気力勾配-1930 T^2/m (捕捉磁場8.57 T)の持続的な発生に成功した。この条件で室温ボア空間における磁気浮上のデモを行い、浮上したビスマス結晶や純水の撮影に成功している。本研究により、強磁場を用いた擬似無重力環境がラボスケールから利用できる新たな磁場源の基本的な構造が完成した。本装置は、国際宇宙ステーションにおける宇宙利用実験と同等の環境を地上で提供できる可能性があるとして期待される。
|