研究課題/領域番号 |
21J14074
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 麻里奈 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | プトレマイオス朝 / 古代エジプト / 動物崇拝 / ヘレニズム / 信仰 / 考古学 |
研究実績の概要 |
本年度は、COVID-19の影響によりエジプト現地での考古調査を行うことが厳しいことを予め予測し、他の動物に増して文字史料による情報が多いワニ信仰に焦点を当てることで、来年度の研究の布石となる研究を行った。 まず、4月からはエジプトの領域部に位置するアコリスとファイユームにおけるワニ信仰の遺跡の型式を比較し、さらにローマ兵がアコリスの在地の神へと捧げたギリシア語碑文を読み解くことで、ヘレニズム期のエジプトにおけるワニ信仰を考古資料と文字資料の側面から分析した。これについては、6月に大阪大学で開催された第25回ワークショップ西洋史・大阪にて報告を行った。なお、この発表で新たに得られた知見を基としながら、アコリス調査団による発掘調査報告書に「Crocodile Worship in Middle Egypt」を、邦語では『文化遺産の世界』に「古代エジプトの動物崇拝とアコリス」を投稿した。 残念ながら、COVID-19が猛威を振るったためエジプト現地での調査を行うことは叶わなかった。そこで、8月以降は指導委託をドイツ・ベルリン自由大学のJochem Kahl教授に委託し、同地において研究を推進している。指導の過程で、中エジプトに位置するアシュートを中心としたイヌ信仰についての知見を深めた。また、エジプト学の授業の中で「プトレマイオス朝期の動物崇拝研究の課題」を発表し、考古学、歴史的、言語学など様々な分野からの議論を行った。この滞在をきっかけに、動物崇拝の大規模な墓域が広がるトゥナ・エル=ジェベルの発掘調査隊に加入することとなり、この機会を活かして研究をさらに発展させる予定である。 また、12月には名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ主催のオンライン・セミナーに参加し、「プトレマイオス朝期の動物ミイラとジェンダー」という題目でアウトリーチ活動を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、COVID-19の影響によりエジプト現地での考古調査を行うことが出来なかった。その一方で、博士論文の根幹を成すであろう課題:古代エジプトにおける動物崇拝は異郷人とエジプト人が相克の関係の中で共存していたのかどうか、についてを史料の側から分析を行うことができた。以上から、総合的には「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、ドイツ・ベルリン自由大学にてJochem Kahl教授のもとで古代エジプト語(中エジプト語・新エジプト語・デモティック)に関する指導委託を受ける。具体的には、プトレマイオス朝期の中エジプトにおけるエジプト人下級神官のような在地住民による現世利益などの祈りや奉納用の動物の飼育に対する所感を記した約70点の叙述史料の分析を行う。これらの史料の集成はまだ一部残っているが、5月末までに集成を、8月末までにすべての分析を終える予定である。加えて、現在に至るまでの史料のコメンタリーについても適宜批判的に再検討し、博士論文の一部とするのみならず、論文として投稿する準備を行う。 9月からは、中エジプトにおける在地住民による動物崇拝の様相を垣間見ることのできる遺跡での現地調査を行う。一ヶ所目は、エジプト・ドイツの合同チームが調査を行っているアシュート遺跡、二ヶ所目は筑波大学名誉教授の川西宏幸隊長を中心とした主に日本人が調査を行っているアコリス遺跡である。なお、昨年度はCOVID-19が猛威を振るったため、エジプト現地での調査を行うことは叶わなかったが、本年度は昨年度とは異なり調査可能である通達を得ている。 上記の二ヶ所の遺跡をケース・スタディとすることで、個別の考古学の側からの分析を行う予定である。具体的には、動物崇拝の興隆に伴って神殿と神殿に付帯する埋納施設が拡張されたという仮説を再検討することである。為政者と在地住民を取り持つ接点として機能していた神殿内での動物崇拝に関する活動を検討することによって、エジプト人の側からの活動を読み解くことが可能となる。 また、上記以外のエジプト全土に散在する神殿30箇所のデータは既に学術雑誌へと投稿済みである。また、今年度の発掘調査によって新たな知見が得られた場合はデータを最新の状況へと昇華させ、博士論文にて再度取り上げることとする。
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