昨年度に引き続き《シモン・ボッカネグラ》《オテッロ》、そして《ドン・カルロ》の楽曲分析および台本分析を行った。また、今年度はこれらの作品が初演された当時の批評や劇場史料の調査を重点的に行った。活動は、(1)楽曲分析・台本分析とその成果発表 (2)作品に関する史料調査(イタリア)に大別される。 (1) 2件の学会発表と1件の論文投稿を行った(論文は現在査読中)。6月の早稲田大学イタリア研究所イタリア言語・文化研究会の発表では、《オテッロ》における、A.ボーイトの詩における悪役の「悪性」の表象と、ヴェルディの音楽がそれをどのように反映しているかを提示した。《オテッロ》の台本における、ボーイトの「二元論」の投影はこれまでにも広く指摘されてきたが、それが音楽上でどのように再構築されているか、特に言葉と歌唱旋律の関係に焦点を当てたことが本研究の特色である。更に、キャラクターに類似性が指摘されてきた《シモン・ボッカネグラ》のパオロと、《オテッロ》のヤーゴについて、詩行上・音楽上の共通点と相違点を具体的に指摘した。8月には国際音楽学会のギリシャ大会(アテネ大学)にて個人発表を行い、《シモン・ボッカネグラ》と《オテッロ》《ドン・カルロ》に見られる、歌唱旋律音型によるキャラクターの「口調」の表現の分析結果を発表した。 (2)イタリアのミラノ、ヴェネツィアにて劇場史料や批評の調査を行った。特にミラノのスカラ座博物館史料室で19世紀当時のオーケストラや演出に関する貴重史料を閲覧したことと、リコルディ史料館にて自筆譜の調査を完成させたことが非常に大きな収穫であった。 これらの研究結果を博士論文にまとめ、2023年度に学位授与見込みである。また、現在査読中の論文投稿と、2023年7月開催の5th Transnational Opera Studies Conferenceでの発表に応募を行った(採択済)。
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