本研究は建築設計および建築施工のプロセスにおけるMRの有効な活用方法の探求のために実施された。そこでは多様な設計主体間の参画する建築設計と施工のプロセスにおける対話の重要性に注目してきたのであり、昨年度においては多様な設計主体間での空間情報の円滑な共有と議論の活発化のための具体的なツールを構想し実装した。本年度においてはそこで得られたデータと発話、および議論のプロセスに対して詳細な分析を行い空間の3次元モデルの見方の誘導や設計を専門としない設計主体の直感的な空間理解のためのMR利用の有効性を捉えた成果を学術論文にまとめ発表した。また、前年度においてはVRやMRといったツールの適切な使い分けに目を向けつつ研究を進める重要性が浮かび上がってきたが、本年度ではその理解を引き受けつつ、むしろMRなどを生活空間においても利用することを想定する必要性が浮かび上がってきた。すなわちMRなどはただの設計や施工のためのツールではなく、それ自体が生活空間の一部となるものであり、今後の設計の場面ではこうした技術の活用によって生まれる空間体験について理解しつつ設計を進める必要があるという理解に鑑みつつ、こうした理解に対して本研究では、MRを用いて生まれる空間について考察を深めつつ博士論文および学術大会の論文としてまとめた。具体的にはMR空間やVR空間の特性について物理空間との関係性によってタイポロジー整理を行いそれぞれの特性をまとめた。こうした知見は生活空間としてのMRの理解に一定の貢献をなすものであり、今後はMR空間も含めた空間全体が設計プロセスの対象となりうるという前段の理解に鑑みると、これからのデジタル空間も対象として含む設計のプロセスの発展に対して一定の成果を残せたものと言える。
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