研究課題/領域番号 |
21J14179
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
伊藤 友里 山梨大学, 医工農学総合教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 水安全性 / 水系感染リスク / 生活用水量 / 適応力 / 代替水 / カトマンズ盆地 |
研究実績の概要 |
本年度は、適応力が生活用水量に与える影響の解析を進めた。カトマンズ盆地地域を対象にゴルカ地震前後で行われた聞き取り調査の結果を用いて、生活用水量(L/人/日)を目的変数、6つの「適応力」を構成する要因(家族人数、経済レベル、教育レベル、家の所有権、コミュニティーへの参加、水処理)と2つの環境要因(水源組み合わせ、給水時間)を説明変数として設定し、線形回帰分析を行った。初めに行った従来の線形回帰モデルを用いた分析の結果は、本年度に国際学術雑誌に掲載することができた。続いて、水系感染リスクと生活用水量に給水区で格差が生じていることを踏まえ、給水区の潜在的な影響を制御するために上述した線形回帰モデルに階層線形モデル(HLM)を適用した。HLMの水環境科学への適用は初の試みである。分析の結果、HLMは統計学的に有効に機能したと判断され、全ての期間で使用水源の数の増加が世帯での生活用水量を相乗的に増加させることを定量的に示した。このことより、平常時だけでなく緊急時でも代替水の確保が水量を確保するための方法として効果的であることを提言した。一方で、家族が1人増えるにつれて、家庭内の共有により一人当たりの生活用水量が約9 L抑えられることを確認した。また、経済レベルが高い世帯ほど水の消費が多い傾向にあったが、この傾向は地震後には見られなくなった。さらに、地震後にはコミュニティーに参加している世帯ほど水の消費が多い傾向が示された。このように、住民の水利用や社会的地位が実際の生活用水量に及ぼす影響を定量化したのは本研究が初めてである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、住民の水問題への「適応力」として複数水源の使用と水処理行動を考慮しながら水系感染リスクを推定した。その結果、代替水の飲用が下痢症発症率を高めていることや給水区間で水系感染リスクに差が生じていることが明らかになっている。また、2つの環境要因(水源組み合わせ、給水時間)に加え、6つの「適応力」を構成する要因(家族人数、経済レベル、教育レベル、家の所有権、コミュニティーへの参加、水処理)が生活用水量に与える影響の評価を行った。従来の線形回帰モデルを用いた分析の結果は、本年度に国際学術雑誌に掲載することができた。さらに、水系感染リスクと生活用水量に地域格差が生じていることを踏まえ、給水区の潜在的な影響を制御するために上述した線形回帰モデルを発展させた階層線形モデル(HLM)を作成し、現在HLMを用いた分析の結果を整理している段階である。当初予定していた通り、適応力を構成する要因間の関係を明らかにするために相互作用項を含めた解析も試みたが、有意な結果は得られなかった。また、地震後にコミュニティーへの参加が住民の生活用水量を増やしている傾向が統計学的に示されたが、コミュニティーが働く過程については追求できていない。このように、適応力を構成する要因間の関係や適応力が働く仕組みについての考察は十分でないため次年度の課題として残るが、「適応力」を構成する要因が生活用水量に与える影響は確認できているため、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
従来の線形回帰モデルを用いた適応力が生活用水量に与える影響の解析については、既に結果を整理し終えている。現在、この線形回帰モデルに階層線形モデル(HLM)を適用した結果を整理している段階である。現時点でHLMの適用から得られている結果によると、コミュニティーに参加している世帯の方が地震後により多くの水を消費していたことが示されている。そこで、コミュニティーへの参加が住民の生活用水量を増やす過程を明らかにするために、コミュニティーへの参加と他の適応力を構成する要因等との関係解析をより詳細に行う予定である。ここまでに得られた研究成果については、次年度中の国際学術雑誌への掲載を目指す。同時に、既に他の研究者によってまとめられている同地域の水の満足度を水安全性の代表とみなし、水系感染リスク・生活用水量との関係解析を行う。最終的には、適応力が水系感染リスク、または生活用水量を経由して水の満足度へ働く仕組みを考察し、優先的に改善できる点や推進される住民の行動などを具体的に提案する。
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