前年度は線形回帰モデルを用いて、2つの環境要因(水源組み合わせ、給水時間)に加え、6つの「適応力」を構成する要因(家族人数、経済レベル、教育レベル、家の所有権、コミュニティーへの参加、水処理)が生活用水量に与える影響の評価を行った。本年度は、給水区の潜在的な影響を制御するために、前年度に作成した線形回帰モデルへの階層線形モデル(HLM)の適用を試みた。HLMを用いた解析の結果、給水区に関わらず代替水の保全が水量確保のための対策として効果的であることが示された。また、コミュニティーへの参加やコミュニティーでの水管理が緊急時に水量を確保するための対策として推奨された。現在、この研究成果をまとめた論文を国際学術雑誌に投稿中である。続いて、「適応力」に伴う住民の負担を確認するために、住民の水利用に関する意識に注目した。既に国際学術雑誌に掲載済みの複数水源からの水系感染リスクの推定結果より、飲用目的にはジャーの水を選択することが推奨されたが、ジャーの水を得る際に住民が金銭的な負担を感じている様子が確認された。また、水量確保についての不安が強い世帯ほど多くの水を使用している傾向が示されたが、これは水量確保のための工夫を行なった(適応力)結果だと予想した。この際生じた住民の適応行動に伴う負担の定量化が課題として残っているが、本研究課題では適応力が水系感染リスクと生活用水量に与える影響を評価すると同時に、住民の適応行動に伴う負担を考慮することの重要性を示すことができた。本研究の成果は、水安全性向上のためのより現実的かつ効果的な住民行動や外部からの支援策の提案へ貢献できると考える。
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