研究課題/領域番号 |
21J14202
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
立石 康介 福岡大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | ワモンゴキブリ / 性フェロモン / 性行動 / 性フェロモン受容体 / 嗅覚受容体 |
研究実績の概要 |
ワモンゴキブリ幼虫の性フェロモン応答性感覚子は成虫脱皮時に伸長し、成虫雄の性フェロモン応答性感覚子へと形態変化を起こす。2021年度までの本研究課題の成果により、この感覚子の形態変化に伴って、内在する感覚細胞の応答感度が上昇することが分かった。この応答感度上昇は性行動発現の一つの要因であると注目し、このメカニズムは、成長に伴うワモンゴキブリの性フェロモン受容体の発現量が高くなることから生じていると仮定し、それを解明すべく、まずワモンゴキブリの性フェロモン受容体の同定を目指した。 昆虫の嗅覚受容体は大きくodorant receptor(OR)型とIonotropic receptor(IR)型の2つ分類される。多くの昆虫種でフェロモン受容体はOR型であると報告があるため、本研究ではワモンゴキブリのOR型嗅覚受容体に注目して実験を進めた。OR型嗅覚受容体は、匂い結合性の嗅覚受容体(ORx)とその共受容体(ORco)のヘテロ複合体で形成される。ORxの匂い結合性にはバリエーションがあり、ORxの種類によって嗅感覚細胞の嗅質選択性が付与される。一方で、ORcoはどのORxに対してもただ一種類のみでヘテロ複合体を構成している。そのため、ORcoの発現を阻害することで、OR型嗅覚受容体を介した匂い受容が行えなくなる。そこで、ワモンゴキブリのORcoをターゲットに、ワモンゴキブリで嗅覚受容体を解析する手法を確立した。ワモンゴキブリではRNA干渉法が非常に効果的であることを発見し、電気生理学的実験を組み合わせることで、その機能解析が容易となった。この成果によってワモンゴキブリの性フェロモン受容体はOR型嗅覚受容体を構成していることが明らかになり、現在、成虫雌と比べて成虫雄の触角上に特異的に多く発現しているORxを候補性フェロモン受容体として遺伝子配列の解析を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、成長に伴う性フェロモン受容の応答感度上昇のメカニズムで仮定した、性フェロモン受容体の発現量の上昇について調べるために、ワモンゴキブリの性フェロモン受容体ORxの同定が進展しているため、ここに報告する。 成虫雌が放出する性フェロモンには、ペリプラノン-A(PA)とペリプラノン-B(PB)があり、これらは成虫雄触角上に特異的多く分布しているPA感覚細胞とPB感覚細胞で受容され、成虫雄は定型的な性行動を示す。PAおよびPB感覚細胞は、OR型嗅覚受容体を発現していることに加えて、先行研究の触角上のトランスクリプトーム解析の結果を合わせることで、成虫雌に比べて、雄の触角に多く発現しているPameOR1、PameOP2、PameOR53、 PameOR62を性フェロモン受容体の候補ORxとして推定した。これらの4つの遺伝子の部分および全長配列を決定し、これらをターゲットとしたRNA干渉法と電気生理学的実験を組み合わせた実験を行った結果、PameOR1発現阻害個体では、PA感覚細胞のPAの応答を選択的に減少させ、PameOR2発現阻害個体では、PB感覚細胞のPBの応答を選択的に減少させた。すなわち、PA受容体は、PameOR1/PameORco複合体、PB受容体は、PameOR2/PameORco複合体で構成されていることが明らかになり、本研究を以って世界で初めてゴキブリ類の性フェロモン受容体を同定した。さらに、幼虫から成虫へと成長することで、触角全体で性フェロモン受容体の発現量が増大することが分かった。すなわち、感覚子に内在する性フェロモン感覚細胞の応答感度の上昇には受容体の発現量が関与していることが示唆された。以上の通り、性フェロモン受容体の同定および発現量解析まで実現しているため、概ね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
ワモンゴキブリの性フェロモンPA、PBと2つあるが、実際にはPB感覚細胞がPAをわずかに受容することが出来る性質を備えているため、正常個体での実験ではそれぞれの明確な役割について追求することができない。そこで、PameOR1、PameOR2発現阻害個体でPA、PB両方に対する行動を観察することで役割が区別出来ると考えた。現在、それら発現阻害個体を作成し、各性フェロモンに対して行動がどのくらい抑制されるのかを調べている。この実験と電気生理学的な解析で使用した発現阻害個体での性フェロモン受容体の発現量が低下しているのかをRT-qPCRを用いてまとめて定量する。さらに免疫組織学的実験によるPameOR1、PameOR2の分布までの結果を取りまとめ、国際学術論文として投稿する。 また、成長に伴う性フェロモン受容体の発現量が増加について、ワモンゴキブリ終齢幼虫から成虫雄へ成長する際に、性フェロモン応答性感覚子が形態変化する特徴に注目して、感覚子レベルで性フェロモン受容体の発現量が増加しているかを正確に検討していく。現在、既にそのサンプルの採取は完了しており、RT-qPCRで測定するまでの準備が整っている。加えて、終齢幼虫は約40日間かけて、体内に次の成長段階を構築していき、構築が完了すると脱皮して成虫へと成長する。この構築期間のどのタイミングで性フェロモン受容体の発現量が増加するのだろうか。このタイミングが確定すると、その時に発生する、または機能するようになる脳内ニューロンの追跡が可能になり、これが性行動を発現させる要因となるのではないかと予想している。こちらについても随時サンプルを採取しており、RT-qPCRを用いて発現量解析を進めていく。 22年度で本研究課題の最終年度になるため、得られた研究成果をまとめ、学術論文として発表するとともに、学会等でも積極的に報告していく。
|