太陽コロナの加熱機構を理解するためには、微小なエネルギー解放現象 (ナノフレア) の寄与を導出する必要がある。そのためには、太陽フレアのエネルギーごとの発生頻度分布の傾き (べき乗則指数) が重要な指標となる。先行研究には以下の問題点がある。 まず、様々な加熱イベントに関する流体シミュレーションを行い、遺伝的アルゴリズムを使って観測結果を再現する最適なナノフレアの組み合わせを求めた。この手法は、ナノフレアで加熱されるコロナプラズマの物理過程と共に、多波長観測結果を総合的に考慮することにより、観測画像の空間分解能より小さな構造まで再現できる新しい手法である。 次に、活動領域における個々の増光現象における熱的エネルギー、非熱的エネルギー、運動エネルギーへの分配率を、分光撮像観測データより導出した。結果として、増光現象において解放される非熱的エネルギーと運動エネルギーは、それぞれ熱エネルギーの変化量のそれぞれ10 -100% と 0.1 - 1% 程度となることを確認した。 最後に、べき乗則指数の様々な太陽パラメータへの依存性を調査した。その結果、(1) 太陽のべき乗則指数の経年変化は太陽活動度に対して負の相関を示す、(2) 活動領域におけるべき乗則指数は静穏領域よりも小さい、(3) べき乗則指数はほとんど変化しないことをそれぞれ見出した。 以上の結果から、ナノフレアの活動領域加熱への寄与を定量的に評価した結果、検出されたイベントによる寄与は最大で必要量の 2% 程度であることを明らかにした。Petschek型磁気再結合の散逸エネルギーのScaling law および自己組織化臨界現象から理論的に導出されるべき乗則指数との比較を通して、残りのエネルギーは主に粒状斑規模の加熱現象によって供給される必要があることを示した。
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