生物群集における優占種の形質進化は、捕食者や環境を介して他の構成種の形質進化を促し、群集の形質分布を異なるものにする。しかしこのような相互作用は時間と共に変化するため、長期的なダイナミクスを実証した例は少ない。本研究では、伊豆半島と伊豆諸島に生息する陸産貝類に注目し、優占種シモダマイマイの形質進化がどのように、群集内の他種類の形質進化に波及するのかを検証する。そのためまず、形成年代が異なる伊豆諸島の各島と伊豆半島で陸産貝類群集の構造を把握する。その上で、群集内の優占種における形質頻度や各島への進出年代を推定し、群集全体の形質分布と時系列変動を明らかにする。同時に野外実験により環境からの効果量や、メタバーコーディングにより群集内の被食種の動態を調べる。さらに、RNA-seqによりシモダマイマイの形質の遺伝的基盤を推定することで、形質進化のドミノ効果が遺伝的基盤に基づくことを裏付ける。 今年度は、昨年度コロナウィルスの影響で実施できなかった島で調査を行うことができた。それにより、昨年度調査することができなかった青ヶ島と御蔵島の調査を終えることができた。調査地点数は250地点となり、階層ベイズモデルを構築する上で十分な数を得ることができた。そして、いくつかの種類では島ごとに形質進化が生じていることがわかった。しかし当初予定していたよりも、調査が後ろ倒しになったため、当該年度中にこれらの成果をまとめることができなかった。シモダマイマイの形質の遺伝的基盤に関しては、RNA-seqを実施することでき、メラニンが殻色に関与している可能性を示唆した。
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