研究課題
これまでの解析から、飽和脂肪酸誘導性のIRE1の活性化にはオートファジー関連遺伝子が関与していることが示唆されている。今年度は、オートファジー経路の中でどの遺伝子がIRE1の活性化に重要であるのかを解析するために、各ステップに必要な遺伝子の欠損細胞を作成し、IRE1の活性化を評価した。その結果、各遺伝子を欠損した細胞それぞれで、飽和脂肪酸誘導性のIRE1の活性化が顕著に抑制されていることがわかった。また、飽和脂肪酸誘導性のIRE1の活性化には膜リン脂質組成の変化が重要であることが示唆されているので、これらの細胞に飽和脂肪酸を添加した時のリン脂質合成を調べた。リン脂質合成を調べた結果、飽和脂肪酸添加で顕著に増加する、リゾホスファチジン酸とホスファチジン酸、中間代謝物であるCDP-DAGの量のみが欠損細胞で顕著に減少していることがわかった。また、興味深いことに、ホスファチジン酸から産生される他のリン脂質量には変化が見られなかった。これらの結果は、オートファジー経路が独特のリン脂質合成系を持っており、それが、飽和脂肪酸誘導性のIRE1の活性化を促進している可能性を示唆する。さらに、オートファジー関連遺伝子がどのようにリン脂質合成に寄与しているかを明らかにするために、リゾホスファチジン酸の合成酵素であるGPAT4の活性をin vitroで調べた。その結果、オートファジー関連遺伝子の欠損で、GPAT4の活性が減弱していることがわかった。オートファジー関連遺伝子が酵素の活性を制御する知見はこれまでになく、これは、全く新しい代謝制御機構の発見につながった結果である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、オートファジー関連遺伝子がどのように飽和脂肪酸誘導性のIRE1の活性化に作用しているかを解明するためのツールとなる欠損細胞の作成が順調に完了した。また、その細胞を使用し、作用機構の鍵となる責任リン脂質を同定できうる結果が得られている。また、当初の研究計画にはなかったが、研究を進めるにあたり、オートファジー関連遺伝子がリン脂質合成酵素の活性を制御する全く新しい知見も得られた。
現在、飽和脂肪酸誘導性のIRE1の活性化の責任リン脂質の候補としてリゾホスファチジン酸とホスファチジン酸、CDP-DAGの三つが考えられる。今後は、この三つのいずれが、IRE1の活性化に重要であるのかを明らかにするために、各リン脂質を合成する酵素を発現抑制や過剰発現させ、細胞内での量を変化させることで、IRE1の活性化に与える影響を調べる。また、実際に特定のリン脂質がどのようにIRE1の活性化を促進しているかを、生化学的な手法やin vitroの再構成実験を通して明らかにしていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 4613
10.1038/s41598-021-84268-9