研究課題/領域番号 |
21J14260
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森下 侑哉 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | データ同化 / 核融合プラズマ / 統合シミュレーション |
研究実績の概要 |
核融合プラズマの統合輸送シミュレーションコードTASK3Dとデータ同化手法(アンサンブルカルマンフィルタ・スムーザ)を組み合わせたデータ同化システムASTIの開発を進めた.本年度の前半では,大型ヘリカル装置(LHD)における粒子・熱輸送のデータ同化を行い,ASTIの解析・予測性能をまとめた.LHDプラズマの密度・温度時系列データ12セット分に対して同化計算を行なった.ASTIによる予測結果および輸送モデルパラメータの推定結果が,用いたデータセット全てを高い精度で再現できたことで,ASTIの推定・予測能力の頑健性が示された.またこの研究の過程で得られた輸送モデルパラメータの推定値を,ガウス過程回帰により回帰することで,より高性能な輸送モデルの開発に成功した. 本年度後半では,データ同化を用いた核融合プラズマ制御手法の開発を行なった.観測情報を用いて状態ベクトルの最適化を行うデータ同化の枠組みに,目的状態時系列を実現する制御入力の推定を追加することで,適応型のモデル予測制御手法を開発した.開発した手法の有効性を検証するため,ASTI内で仮定している輸送モデルとは異なるモデルを用いた模擬プラズマ(TASK3D)をASTIにより制御する数値実験を行った.プラズマ中心における電子温度を目標状態とした数値実験において,模擬プラズマを高精度で制御することができ,手法の有効性が確認された.データ同化を制御に拡張する試みは,世界的にも本研究が初めてである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度において,LHDプラズマの熱・粒子輸送に対するASTIの推定能力の頑健性を示すことができた.ASTIは,状態ベクトルに含める変数を変えることで,様々な推定問題に適用することでき,解析システムとしてのASTIは完成したと言える.また計画に沿って,計算の高速化も進めており,計算時間の大部分を占めていたビーム加熱分布計算や径電場計算の大幅なコスト削減に成功した.また,この研究の最終目的であるデータ同化による制御システムの構築についても,制御アルゴリズムの開発に着手し,数値実験においてその有効性が確かめられた.これらを踏まえて,本研究課題は順調に進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,制御手法の開発を進める予定である.ハイパーパラメータである各種ノイズ強度による制御精度の変化を調べ,必要であれば動的調整を導入する.状態ベクトル内の変数間の依存関係を把握し,より細かいノイズの調整ができるように現状のコードを拡張する.様々な放電状況に対してデータ同化システムを安定して運用できることを確認するため,様々な状況を想定した検証を行う.また,ASTI内で仮定してモデルと現実の応答との差異による制御精度の変化を調べる.モデルの表現能力(自由度)と同化する観測情報の量との関係を調べ,現実とモデルとの差異に対して,柔軟に対処できる制御システムの構築を模索する. 実時間を超える速度での予測を実現するため,データ同化システムの高速化を行う.具体的には行列計算の高速化や物理モデルの簡約化である.特に衝突輸送や中性粒子密度分布のモデルを高速化し,1タイムステップ0.01秒程度まで短縮することを目指す.こうした物理モデルの簡約化に伴う不確実性の増大は,データ同化により補うことが可能である.
|