本年度も昨年度から引き続き、八員環構築反応の機構解明研究と周期性三次元ナノカーボンの合成検討を行った。高精度なエネルギー値を与える波動関数計算(DLPNO-CCSD(T))を用いることで、想定反応機構の各段階が実験結果と矛盾せず妥当なエネルギー変化を伴うことが明らかとなった。環化二量化反応ではパラダサイクル中間体に対するクロロフェナントレンの酸化的付加が高温条件で進行し、四価のパラジウム錯体を与えることを明らかにした。反応性の高い四価のパラジウム錯体から迅速な C-H 結合の活性化とC-C 結合形成が進行し、八員環構造へと誘導されることが示された。環化クロスカップリング反応においては一回目の酸化的付加はクロロフェナントレン、二回目の酸化的付加はビフェニレンでそれぞれ高選択 的に進行することが活性化障壁の評価によって明らかになった。またビフェニレンから生じる回転自由度の高いフェニレン構造が八員環形成に有利であり高いクロス選択性に寄与することが示された。さらにクロロフェナントレンよりも容易に酸化的付加を起こすブロモフェナントレンを用いた際の実験結果も量子化学計算によって再現することができた。本研究によって得られた反応中間体や遷移状態における構造、エネルギーおよび軌道等の情報は、周期性三次元ナノカーボン合成を目指すうえで課題となっている基質適用範囲の拡大や立体選択性の改善に貢献することが期待される。
|