研究課題/領域番号 |
21J14292
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井上 順平 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 反応拡散系 / 数理生物学モデル / 楕円型偏微分方程式 / 拡散ロジスティック方程式 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,拡散ロジスティック方程式の定常解に着目し,拡散と境界条件が生物分布にもたらす数理的メカニズムの解明を目指している.具体的には,拡散係数と資源関数を様々に変化させて,解の積分量と資源関数の積分量の比を調べるという最適棲息分布問題に従事している.これは,生物モデルの見地から「限られた餌の下での個体数の最大化問題」と捉えられ,2012年頃にWei-Ming Ni氏により提起された.この問題に関して,Bai-He-Liによって空間1次元ノイマン条件ではその上限は3で,Inoue-Kutoによって高次元ノイマン条件では無限大であることが知られている.しかしながら境界条件による差異や高次元解のプロファイル,拡散の効果については未解明な部分も多い. そこで2021年度においては,以下の2つの解析を行った.まず1つは,本問題における拡散の効果を明らかにする為に,拡散を表す作用素を,局所拡散を表すラプラス作用素から非局所拡散を表す積分型作用素に置き換えて,積分量の比の上限を解析した.研究代表者と,更に同時期にBai-Liは,どの空間次元においても比の上限が無限大となることを示した. 2021年度のもう1つの取り組みとして,拡散ロジスティック方程式の自然な修正案の1つを提案した.研究代表者は積分量の比が無限大になる一因として,反応項が2次式である上に,資源関数をデルタ関数に漸近させている点にあると考えた.そこで,資源関数としてデルタ近似列を許容する為の解決策の1つとして,解の値が大きいところでは反応項が1次式となるような方程式の修正を提案した.この修正により積分量の比の有界性が期待される. 2021年度におけるこれらの解析により,研究課題目標の一つである,拡散と空間次元の違いが生物分布にもたらすメカニズムの一端が解明された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は,拡散係数と資源関数を様々に変化させて,解の積分量と資源関数の積分量の比を調べるという最適棲息分布問題を,2つの観点から考察した.まず1つは,本問題における拡散の効果を明らかにする為に,拡散を表す作用素を,局所拡散を表すラプラス作用素から非局所拡散を表す積分型作用素に置き換えて,積分量の比の上限を解析した.研究代表者は,どの空間次元においても比の上限が無限大となることを証明した.同時期にBai-Liも同じ結果を得ており,更にBai-Liでは積分量の比の発散のオーダーを精密に求めている.残念ながら研究代表者の実績として挙げることはできないものの,当該研究としては進展をみた. 2021年度のもう1つの取り組みとして,拡散ロジスティック方程式の自然な修正案の1つを提案した.先行研究によって,空間2次元以上では積分量の比の上限が無限大になることが知られている.研究代表者はその一因が,反応項が2次式であり,その最大値では概ねデルタ近似列の自乗をとる為,解が資源関数に比べて非常に大きくなる点にあると考えた.そこで,資源関数をデルタ関数に漸近させる操作を許容する為の解決策の1つとして,解の値が大きいところでは反応項が1次式となるような方程式の修正を提案した.この修正により積分量の比の有界性が期待される.本問題の解析は本質的に,反応項が自乗型の拡散ロジスティック方程式の定常解で,特に原点に特異性がある解の解析に帰着されることが2021年度の研究によって明らかとなっている.しかしながら完全な解明には至らなかった. 以上より,前者の取り組みに関しては研究の進展があったものの,後者に関しては修正モデルの提案に留まり,その解析には至っていない.したがって総合的にやや遅れていると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度も引き続き,拡散ロジスティック方程式の定常解が,拡散係数と資源関数に受ける影響の数理的メカニズムの解明を目指す.2021年度は,1つは拡散の種類を変え,もう1つは資源関数としてデルタ近似列を許容する修正案を提示した.前者については研究代表者による結果と,更にそれを包含するBai-Liの結果によって1つの解決を見た.後者については依然として顕著な結果を得るには至っていない. そこで2022年度の目標として以下の2つを掲げる.まず1つは,2021年度の取り組みで未解決となっている修正された拡散ロジスティック方程式に対して最適棲息分布問題を考察することである.本問題の解析は本質的に,反応項が自乗型の拡散ロジスティック方程式の定常解で,特に原点に特異性がある解の解析に帰着されることが明らかとなっている.そこで2022年度は上述の特異解の解析を通じて,積分量の比が非有界となるメカニズムの解明を目指す. そして2022年度のもう1つの目標は,境界条件が解構造へ与える影響のメカニズムの解明である.解の積分量と資源関数の積分量の比の上限を考える問題は,これまではノイマン境界条件で考察されてきた.2022年度はこの問題をディリクレ境界条件に変えて考察する.境界条件の変更により現れる顕著な違いの1つとして,正値解の存在の為の拡散係数の存在範囲が,資源関数に依存して定まることが挙げられる.一見すると境界条件の変更により解が小さくなり積分量の比も小さくなると思われるが,境界から離れた場所に資源を集中させることでどの程度境界条件の影響を減らせるかが本問題の鍵となる. 本研究課題の遂行にあたり,昨今の社会情勢によって成果の発表機会が限られる可能性があるが,オンライン集会等での積極的な口頭発表を目指す.また数値計算を積極的に行い,解構造の解明の一助とする.
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