根の酸素漏出バリアの形成は耐湿性の獲得に重要である。耐湿性の高い栽培イネは酸素漏出バリアを嫌気還元ストレス条件下で誘導的に形成するが、栽培イネを用いた研究だけでは酸素漏出バリア形成の分子メカニズム解明は困難とされてきた。我々はこれまでに、アマゾン川流域に自生する野生イネOryza glumaepatulaは嫌気還元ストレスを受けなくても恒常的に酸素漏出バリアを形成することを見出した。本研究では、酸素漏出バリアを種子根で恒常的に形成するO. glumaepatula (IRGC105668系統) のイントログレッション系統群 (遺伝的背景は栽培イネT65品種) を用いて、酸素漏出バリア形成を決定づける遺伝子群の特定を目的とした。 恒常的酸素漏出バリア形成に関与する染色体領域を絞り込むために、60系統のイントログレッション系統群の中から恒常的バリアを形成する系統を選抜したところ、8系統を絞り込むことができた。その8系統の遺伝子型データより、バリア形成に関与する領域は、第4、7、10染色体上に座乗することが示唆された。また、バリアの主成分と考えられている外皮のスベリンラメラ形成を調べたところ、第4、7染色体上の候補領域を持つ系統はスベリンラメラを形成していたのに対し、第10染色体上の候補領域を持つ系統はスベリンラメラを形成していなかった。バリア形成に関与する遺伝子を絞り込むため、イントログレッション系統群の供与親と、恒常的バリアを形成したイントログレッション系統を用いて、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析を試みた。しかし、十分なクオリティのRNAを抽出することができず、解析を進めることができなかった。以上の結果より、恒常的酸素漏出バリア形成に関与する候補領域を第4、7、10染色体上にまで絞り込むことができ、今後、遺伝子単離のための基盤となる結果と材料を得ることができた。
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