本年度は、主に、キラルソリトン格子(Chiral Soliton Lattice: CSL)に特有の集団励起である「CSLフォノン」に関する研究を推進した。CSLは周期変調が可能な磁気的な超格子である。磁気超格子の並進対称性の破れに応じて、CSLフォノンモードが励起されることが期待できる。しかし、これまでに明確な実験的証拠は得られておらず、モードの存在を実証することは重要な研究課題となっていた。 遷移金属ダイカルコゲナイドCrNb3S6結晶において、CSLフォノンの応答として期待される磁気共鳴の高次モードを16 GHzから40 GHzという周波数帯で観測した。理論解析から、CrNb3S6結晶における交換相互作用の大きさを見積もった。さらに、臨界磁場が異なる結晶においてCSLフォノン測定を行い、臨界磁場の値が大きくなるにつれて反対称交換相互作用の値も大きくなることを明らかにした。これらの成果の一部は、米国物理学会Physical Review Lettersに掲載されており、基礎研究として高く評価されている。 実験に用いた装置の上限周波数は40 GHzであり本実験での検出限界を与えていたが、高次モードは100 GHzを超えて成長すると見積もることができる。元素置換したCrTa3S6結晶ではその物質パラメーターからCSLフォノンの周波数がさらに高くなり、550 GHzに到達すると予測される。つまり、CSLフォノンは、サブテラヘルツ帯域まで磁気共鳴の周波数を変調するための新たな指導原理となり、Beyond 5Gに代表されるような次世代通信システムの技術開発に貢献することが期待できる。このように、本研究成果は、キラル磁性応用の道筋を示しており、科学新聞や国内外のウェブメディアにも取り上げられている。
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