銀河中心の超巨大ブラックホール(BH)の進化、およびその急成長期であるダストに埋もれた活動銀河核(AGN)の活動史はよく理解されていない。本研究では、AGN 活動史を探る新たなプローブとして、近年、星・惑星間ダスト研究で盛んに研究されているアストロミネラロジーの知見を導入する。 当該年度は、赤外線天文衛星Spitzerによって観測された深く埋もれたAGN115天体の中間赤外線スペクトルを用いて、波長10μm帯に見られるシリケートダストバンドを系統的に解析した。その結果、天体間でダストバンドの形状が有意に異なることを示した。その違いを説明するには、非晶質橄欖石、非晶質輝石、結晶質橄欖石の3成分を考慮する必要があり、組成比は大きくばらつくことを指摘した。特に、結晶度は100 K以下の領域に存在する水氷の光学的深さと有意に反相関した。よって、結晶シリケートはAGN活動を介した高温加熱により結晶化したことが示唆されるが、吸収フィーチャーとしてのみ観測されたことから低温領域に存在する。以上より、非晶質シリケートが中心核近傍の高温領域で結晶化され、アウトフローによって外側の低温領域まで運ばれた可能性を提案した。上記内容を査読付学術誌にて発表した。 さらに、幅広いダスト性質とこれまで以上に精度の良い解析結果を得るために、中心核周辺のダスト分布を仮定し輻射輸送計算を解くことで、中間赤外線スペクトルを波長5-30μmの全範囲で細部まで詳細にモデル化することに成功した。その結果、サイズの大きなダストは存在せず、ダストの空隙率が比較的高いことがわかった。また、結晶度や鉱物学的組成が赤外線光度、ダストの柱密度に依存することに基づいて、核周領域の鉱物学的な描像を初めて明らかにした。
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