研究課題/領域番号 |
21J14479
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸山 勝矢 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 生体共役反応 / タンパク質化学 / チロシン / ペプチド / ラジカル |
研究実績の概要 |
タンパク質化学修飾反応は、タンパク質の人工的機能化を可能とする。アミノ酸残基のうちチロシン(Tyr)を修飾の標的とできれば、Tyrのタンパク質表面への露出数の少なさゆえ、均質なタンパク質修飾体が得られることに加え、Tyrはタンパク質間相互作用界面や酵素の活性中心を担うため、修飾によりタンパク質機能へ介入できると期待される。この背景のもと、オキシム試薬から酸化的に生成するイミノキシルラジカルを用いたTyr修飾反応の開発に取り組んだ。反応条件およびオキシム試薬の詳細な検討の結果、pH 6の中性緩衝液、37℃という温和な条件で、種々のペプチド・タンパク質をTyr残基選択的かつ高効率に修飾可能であった。さらに、修飾にはアジドやビオチン、糖、抗がん剤等の機能性(複雑)分子を結合したオキシム試薬を用いた場合にも、機能性分子を損傷することなくタンパク質に結合可能で、結合した機能性分子の持つ機能でタンパク質が機能化されることを実証し、一般性の高いTyr修飾反応を実現した。 また、オキシム試薬の構造最適化検討の過程でオキシム試薬の嵩高さが修飾体の安定性に大きな影響を与えることが見出された。特に、嵩高いオキシム試薬を用いた際に生じる修飾反応の可逆性を、タンパク質機能のON/OFF制御ツールとしての展開を計画した。実際にこの概念実証として、酵素活性および抗体の抗原結合能が、Tyrを嵩高いオキシム試薬で修飾時には低下した一方、還元条件で逆反応を進行させ、未修飾Tyrを再生した場合には修飾前と同等の酵素活性・抗原結合能が再生し、Tyrの修飾を介したタンパク質機能制御ツールとしての有用性を示すことができた。 論文化したこれらの研究成果は、Journal of the American Chemical Societyに掲載された(J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 19844.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タンパク質修飾に必要な水中反応条件のため、有望な試薬構造および反応条件の詳細な最適化を行うことで、一般性の高いタンパク質修飾反応を完成させることができた。また、その際に得られた修飾体の不安定性を応用することでタンパク質機能のON・OFFスイッチを展開することができ、その概念実証に成功した。本成果は、タンパク質修飾反応が従来から担うタンパク質の人工的機能化法に加え、可逆反応でタンパク質の機能を化学的に制御するという新たなツールを提供している点で価値があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在の反応条件は、当量酸化剤を用いてオキシム試薬を活性化する反応条件となっており、適用可能なタンパク質基質および結合可能な機能性分子に制限があると考えられる。当初計画した通り、当量酸化剤の使用を回避する電解反応条件の確立およびオキシム試薬構造の更なる探索を行うことで、温和な条件かつ高効率なタンパク質修飾法を開発していく予定である。
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