昨年度までの研究で、ラジカル種を活性種として用い、チロシン選択的なタンパク質修飾反応の開発を行い、その一般性を実証した。反応は、温和な条件下、高効率に進行し、多様な官能基を有する分子をタンパク質に結合することが可能であった。同様に、ラジカル反応の官能基許容性の高さを活かし、タンパク質と同様、反応性官能基に富む生体分子を変換法の開発を計画し、反応開発研究に着手することとした。具体的には、複数の酸素官能基が不斉点として置換する糖基質に着目した。糖基質は自然界に多様に存在し有用なキラルビルディングブロックであると同時に、特有の生物活性を有している。糖基質の骨格を変換する方法論を確立できれば、糖アナログとして生物活性が期待される新規キラルビルディングブロックを提供する有用な方法論となると期待される。光酸化還元触媒/水素原子移動(HAT)触媒からなるハイブリッド触媒系により糖骨格から炭素ラジカルを生成し、続く骨格開裂反応ののち、立体選択的に閉環する炭素環構築反応を想定した。単純な触媒系が適用可能かつ、より安定な炭素ラジカル基質を生成すると想定されるモデル基質を設定し、所望の骨格変換を実現する変換の検討を行った。反応条件探索および最適化の結果、所望の生成物を良好な収率で与える反応条件の確立に成功した。今後は、本モデル反応で得られた知見を基盤に広範な糖基質の骨格変換を実現する反応条件の確立が期待される。
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