ポリロタキサンは多数の環状分子(α-シクロデキストリンなど)の空洞部を線状高分子が貫通した超分子集合体である。ポリロタキサンの特徴の一つに環状分子が線状高分子鎖に沿って運動する分子可動性が挙げられ、これは環状分子の貫通数によって調節することができる。 2022年度は、昨年多数採取したヒト歯根膜細胞を培養し、細胞機能の評価を行ったところ、個体間で増殖や骨分化などに有意差が認められた。その要因として細胞老化が関係していることが明らかになり、細胞老化の亢進により増殖能や骨分化能が低下する傾向が認められた。歯周組織では歯周炎により活性酸素種が産生され、活性酸素種は細胞老化を誘導することが知られている。したがって、酸化ストレスにより誘導される細胞老化を抑制すれば、増殖能や骨分化の低下を軽減することができることが期待される。 そこで、ポリロタキサンの分子可動性が酸化ストレスにより誘導される細胞老化に与える影響を明らかにするために、間葉系幹細胞を対象として細胞老化の評価を行った。α-シクロデキストリンの貫通数が多いポリロタキサン表面に接着した間葉系幹細胞では、メカノセンサー分子が細胞核に移行することが明らかになった。メカノセンサー分子が細胞核に移動すると、細胞老化が抑制されることが知られている。一方、酸化ストレスはメカノセンサー分子を細胞質に移行させることが知られている。酸化ストレス下において、α-シクロデキストリンの貫通数が多いポリロタキサン表面上の細胞ではメカノセンサー分子が細胞核内に保持され、細胞老化を軽減させる傾向が認められた。メカノセンサー分子の核内局在と細胞老化の程度には強い負の相関関係が認められたことから、メカノセンサー分子の細胞内局在をコントロールできるポリロタキサン表面の分子可動性は、酸化ストレスによる細胞老化の制御に有用であることが示唆された。
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