研究実績の概要 |
本研究は、海洋生態系における主要な分解者であるデトリタス食性カイアシ類が、その感覚器をどのように特殊化させ、貧栄養環境での餌探索に適応してきたのか、検証するものである。光・化学感覚器の電子顕微鏡観察の結果、光導波機能が疑われる細胞小器官や、脊椎動物特有の化学感覚細胞に類似した構造など、極めて特殊化していることが明らかとなった。さらに分類群間比較の結果、光・化学感覚の相補的発達が示唆された。16S rRNAメタバーコーディングの結果、感覚器構造が異なる分類群間で消化管内細菌叢が異なっており、付着細菌が異なる餌デトリタスの食い分けが考えられる。このように、感覚器の詳細な機能形態から、それらがどのようなデトリタスへの適応なのか、食い分け現象による多様性の形成・維持に至るまで、詳細で包括的な知見が得られた。これらの結果の一部は学会発表され(米田他, 2021; Chan et al., 2021)、今後は論文投稿も行う。 上記の研究を行う過程において、分類学上の混乱が大きな問題となった。特に近底層性のカイアシ類では未記載のものが多く、系統関係についても不明な点が多い。そこで、研究過程で発見されたカイアシ類1新種を記載し、分子系統解析を行った。この結果は査読付き国際誌から出版された(Komeda et al., 2021)。加えて、感覚器観察を行ったデトリタス食性カイアシ類の科レベルの分類や系統関係は混乱しており、分子系統解析によっても結論が出ていない。そこで、付属肢形態や感覚器構造まで考慮に入れた系統解析を行っており、分析・執筆の段階にある。
|