外洋域で優占する甲殻類プランクトンである、デトリタス食性カイアシ類の光/化学感覚器の機能形態を各種電子顕微鏡で観察し、食性ニッチとの関連を検証した。頭頂部にある単眼からは、外骨格が変形したレンズや、肥大した感桿(光受容体を持つ細胞小器官)など、僅かな光を感知するための適応が確認された。加えて、口器付属肢に位置する化学感覚毛からは、最大2000本もの繊毛に加え、未知の細胞や分泌腺が発見された。分類群間比較の結果、単眼の有無および配置、繊毛やその他感覚細胞の数が異なっており、光感覚と化学感覚の相補的発達が確認された。消化管内細菌叢のDNAメタバーコーディングの結果、光感覚が発達した種ではビブリオ科細菌が卓越しており、デトリタスに付着する細菌の発光を感知すると推察される。一方、化学感覚が発達した種では個体間で細菌叢が異なり、餌選択性が低いと考えられる。このように、デトリタス食性カイアシ類は感覚器を多様化させることで、食性ニッチ分割による他種共存を実現したと結論される。上記の研究に加え、粒子食性カイアシ類の一部分類群(アエティデウス科)の口器形態が特徴的であり、消化管内に小型甲殻類や単細胞動物プランクトンの断片が多いことが明らかとなった。粒子食者では餌捕獲機能を多様化させて食い分けを行っていると考えられる。 前年度の査読付国際誌への論文投稿に加え、本年度は国際学会において口頭発表1件を行った他、招待講演1件の後半部を担当した。加えて、国内学会での発表も行っている。さらに研究者向けのプランクトン図説(日本の海洋プランクトン-検索と同定)を分担執筆中であり、12目27科67属251種相当の初稿が提出済みである。本図説は今後のプランクトン研究の基盤となることが期待される。
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