研究課題/領域番号 |
21J14503
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井上 恵希 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | ラダーポリマー / 刺激応答性 / コンフォメーション / ダイナミクス / ジアザシクロオクタン / 多孔性 |
研究実績の概要 |
本研究は、柔軟ラダーポリマーを基盤とした全く新しい材料の開発と特異的な力学・運動挙動の探求に取り組むとともに、革新的刺激応答性材料の開発を目的としている。革新的刺激応答性材料の開発に先立ち、本年は柔軟ラダーポリマーが示すダイナミクスの解明を中心として、以下に示す4つのテーマを推進した。 1.剛直なラダーポリマーに柔軟なジアザシクロオクタン(DACO)骨格を導入した際、ポリマーの物性にどのように影響するかを評価した。その結果、柔軟なDACO骨格の導入量の増加に伴い、凝集状態における多孔性がある閾値を持って急峻に変化することや、窒素に対する二酸化炭素吸着量が増加することを見いだした。得られた成果を取りまとめ、国際学術誌ChemNanoMat誌に筆頭著者として論文を発表した。 2.柔軟ラダーポリマーが示す配座変換ダイナミクスの評価に取り組んだ結果、研究対象とするラダーポリマーが、一本鎖ポリマーとは本質的に異なる、屈曲とねじれの2つのダイナミクスを示すことを見出した。興味深いことに、それら2つのダイナミクスは独立して生じ、置換基によって運動の速度が劇的に変化することを見出した。 3.上記の研究過程で、分子ダイナミクスと細孔物性間の相関を見出した。多孔性ポリマーは有用な化合物群であり、「剛直な主鎖骨格の導入」を設計指針とした分子が多く報告されている。本研究では、「柔軟な主鎖骨格の導入」による分子ダイナミクスと細孔特性間の相関を明らかにした。 4.イオン応答性の導入を目的として、クラウンエーテル骨格を主鎖に持つ刺激応答性ラダーポリマーの合成に成功した。現在、刺激応答性の評価を進めている。 以上の成果に加え、共著者としてAsian Journal of Organic Chemistry誌に論文を一報発表している他、学会発表を3件行い、そのうち1件の発表で講演賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の実績に基づき判断した。 第一に、剛直なラダーポリマーに対して柔軟なジアザシクロオクタン(DACO)骨格を導入することによる物性変化の評価において、柔軟なDACO骨格の導入量の増加に伴い、凝集状態における多孔性がある閾値を持って急峻に変化することや、窒素に対する二酸化炭素吸着量が増加することを見いだした。得られた成果を取りまとめ、国際学術誌ChemNanoMat誌に筆頭著者として発表した。 第二に、DACO骨格の新たな構築法の開発に成功し、これまでにない置換基の導入が可能になった。新たに構築したDACO骨格は従来のDACO骨格と異なる運動性を示すだけでなく、高い刺激応答性を有することも期待される。 第三に、柔軟ラダーポリマーのダイナミクスの定量的な理解に成功した。計算化学と実験的手法から、種々DACO骨格が示すねじれと屈曲運動の速度を定量化するとともに、置換基によって各運動の速度が劇的に変化することを見出した。本結果は、研究対象とするラダーポリマーが一本鎖ポリマーと本質的に異なる屈曲とねじれの2つのダイナミクスを有することを示す結果である。 第四に、ダイナミクスと細孔特性間の相関を発見した。柔軟ラダーポリマーのダイナミクスを評価する中で見出した主鎖の柔軟性と多孔性の相関は、多孔性ポリマーの設計に新たな指針を与えることが期待される。さらに、柔軟ラダーポリマーの特徴的な多孔性を光で制御できれば、革新的な材料となることが期待される。 第五に、刺激応答性ユニットを主鎖に持つ柔軟ラダーポリマーの合成に成功した。具体的には、イオン応答性の導入を目的としてクラウンエーテル骨格を主鎖に持つラダーポリマーの合成を完了している。現在、このポリマーについてイオン応答性の評価を進めるとともに、劇的なダイナミクスの発現を目的として、光応答性を組み合わせたダイナミクスの開発を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、柔軟ラダーポリマーを基盤とした全く新しい材料の開発と特異な力学・運動挙動の探求に取り組むとともに、革新的刺激応答性材料の開発を目的としている。昨年度は、革新的刺激応答性材料の開発に先立ち、柔軟ラダーポリマーが示すダイナミクスの解明を中心として研究を遂行した。現在までに実施した研究は、剛直ユニットを柔軟ユニットに置換することによる物性変化の評価、柔軟ラダーポリマーのダイナミクスの定量、ダイナミクスと細孔特性間の相関の発見、ならびに、刺激応答性ユニットを主鎖に持つ柔軟ラダーポリマーの合成である。今年度は、柔軟性ラダーポリマーの特異な力学・運動挙動の探求を主軸とし、柔軟性ラダーポリマーの多孔性に関する研究を並行して推進する。具体的な方策を以下に示す。 革新的刺激応答性材料の開発を目的として、イオン応答性のクラウンエーテル骨格を主鎖に持つ刺激応答性ラダーポリマーの合成に成功している。現在、このポリマーについてイオン応答性の評価を進めているとともに、劇的なダイナミクスの発現を目的として、光応答性を組み合わせたダイナミクスの開発を検討している。今後、主鎖に光応答性ユニットを主鎖に持つラダーポリマーも新たに開発し、特異な力学・運動挙動の探求に取り組む。 上記の刺激応答性材料の開発と並行し、多孔性に関する研究も推進する。多孔性ポリマーは有用な化合物群であり、「剛直な主鎖骨格の導入」を設計指針とした分子が多く報告されている。一方、本研究では「柔軟な主鎖骨格の導入」による分子ダイナミクスと細孔特性の相関を見出しており、多孔性ポリマーの設計に新たな指針を与えることが期待される。現在、分子ダイナミクスの観点からミクロ多孔性の発現メカニズムについて理解を進めるとともに、高分子膜の物性評価についても準備を進めている。
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