これまでの研究において、フタバネゼニゴケ(Marchantia paleacea)から新規SL、Bryosymbiol(BSB)を同定し、種子植物と同様にリン欠乏によりBSBの生産量が増加することを明らかにした。種子植物ではリンによる制御に加え、窒素欠乏においてもSLの生合成が促進されることが知られている。窒素は植物において最も要求量の多い栄養素であり、窒素欠乏条件下におけるSLの生産はAM菌との共生において重要であると考えられるが、その起源と進化については知られていない。今年度の研究では、フタバネゼニゴケにおけるリン欠乏と窒素欠乏に応答したSLの生産制御を調査した。栄養欠乏処理時におけるSL生合成遺伝子(MpaD27、CCD7、CCD8A、CCD8B、MAX1)の発現量解析と、仮根滲出液の根寄生植物種子に対する発芽活性試験、仮根滲出液に含まれるBSBのLC-MS/MS分析を行なった。その結果、窒素欠乏処理によりSL生合成遺伝子の発現が誘導され、BSBの生産量が増加した。また、窒素とリンの同時欠乏処理ではSL生合成遺伝子の発現に対する相加的な影響はなく、その発現量は窒素状態に依存している傾向が見られた。これらの結果から、窒素欠乏に応答したSLの制御が陸上植物に広く保存されていることが明らかになった。
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