研究課題/領域番号 |
21J14599
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
川口 美沙 東京農工大学, 工学研究院, 特別研究員(PD) (00973570)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 懸濁液 / レオロジー / 混相流 / Segre-Silberberg効果 / 格子ボルツマン法 |
研究実績の概要 |
分散系懸濁液の巨視的な流動特性は,微視的な懸濁粒子の分散状態や粒子挙動により変化する.流路内流れにおいては,特異的な粒子分散状態を形成する懸濁粒子の慣性移動現象(Segre-Silberberg効果)が起こる.本研究は,圧力駆動される懸濁液流れの微視的な粘度評価方法の検討と,慣性移動を利用したレオロジーコントロールのための知見を提供することを目的とする. 粒子の慣性移動を利用したレオロジー操作の実現には,微小流路を流れる懸濁液の見かけ上の粘度である実効粘度の評価が困難であるという問題がある.本年度は,粘度式の適用が困難な懸濁液流れにおける実効粘度評価方法の検討として,数値計算手法の比較検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個々の粒子の粘度への寄与を重ね合わせることにより,懸濁液の実効粘度を推定し,数値計算結果との差異から,流体力学的相互作用や粒子の回転運動などの力学的構造の変化に起因する粒子の粘度への寄与を定量的に評価することが本年度の計画であった.当初の計画であった3次元計算は断念したものの,数値計算手法についての比較検討を行い,粘度推定に関する検討は順調に進んでいるため,上記のように判断した.以下に具体的に述べる. 2021年度までに,粒子の流下位置および運動に関連した局所的な実効粘度の時間・空間変化に着目した微視的な実効粘度評価を行った.具体的には,楕円粒子を含む懸濁液の粒子形状が慣性移動における平衡位置と実効粘度に与える影響を調査した.粒子形状と流路幅に対する粒子の大きさが実効粘度に与える影響を整理し,楕円粒子を含む懸濁液の場合,粒子の非定常な回転に起因する粘度の時間変化よりも,空間変動の方が大きいことを示した.これらの成果は粒子の慣性移動を利用したレオロジー制御の実現に役立つことが期待される.当初の計画では,さらに非球形粒子を含む3次元懸濁液流れの数値計算を行う計画であった.しかし,計算コストが見積もりよりも膨大になったため,計算手法の比較検討を行った. 数値計算手法の検討として,並列計算効率に優れ計算メモリの削減が可能な正規化格子ボルツマン法と組み合わせる手法として,仮想流束法および埋め込み境界法の比較検討を行った.懸濁液流れのような多数の移動境界問題に対して,仮想流束法を用いた場合に,計算精度を保ちつつ計算コストの低減が可能なことを示した.また,粒子の回転運動が実効粘度に与える影響,慣性移動による粒子分散状態の変化が懸濁液の実効粘度に与える影響について考察した.得られた結果は学術雑誌に投稿し,査読中である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,懸濁液流れにおける微視的な粒子挙動と,巨視的な懸濁液の実効粘度の関係を明らかにするため,個々の粒子の運動による実効粘度への寄与を足し合わせることで,懸濁液流れの実効粘度を推定することを引き続き検討する.Segre-Silberberg効果を数値シミュレーションによって再現し,圧力駆動される懸濁液流れにおける粒子分散状態および粒子挙動と実効粘度の関係を明らかにする.
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