研究実績の概要 |
最近、強力な抗菌活性を有する新規ランチペプチドが放線菌より単離された。これらは異常アミノ酸であるアビオニン構造から成る二環性スピロ型マクロ環であり、従来の環状ペプチド、二環性ペプチドとは異なる特異な構造を有している。また、アビオニンの二つの不斉中心の相対および絶対立体配置は決定されていない。申請者は、本化合物の合成法を確立し、様々な誘導体を含むライブラリーを創出することで、「スピロ環状ペプチド」の有用性を実証することを計画した。本研究では、アビオニン構造の絶対立体配置の決定を指向した効率的なアビオニン構造合成法の開発とスピロ環状ペプチド天然物の全合成を目的として研究を行っている。昨年度までに安価で容易に入手可能なトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの誘導体に対する1,5-HAT反応を鍵とする遠隔位C―H結合官能基化により、アビオニン構造に含まれるα―アミノ四置換炭素を有する二環性化合物を構築することに成功した。また、得られた二環性化合物から誘導したラクトンに対してチオ酢酸カリウムを作用させることで硫黄原子が導入された化合物を得ることができた。本年度の研究では、アビオニンの絶対立体配置の決定を目指して、スピロ環状ペプチド合成における重要中間体への誘導化に向けた検討を行った。まず、昨年度合成した硫黄原子含有中間体のジアステレオマーの合成に着手した。様々な検討の結果、保護基の選択を工夫することで昨年合成したラクトンの四置換炭素部位に関するジアステレオマーを合成し、得られたラクトンに対してトリフェニルメタンチオールを作用させたところ、硫黄原子が導入されたアビオニン部分構造を得ることができた。また、その後の誘導化によってアビオニンや類似異常アミノ酸であるラビオニンの共通中間体となるスピロ環状ペプチドの中心構造を得ることが出来た。
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