研究課題
腸管内には、健康増進効果をもつ「善玉菌」、疾患の原因となる「悪玉菌」、急性疾患の原因にはならず健康増進効果も特定されていないため、その機能が研究の途上にある「日和見菌」が存在する。これまでに、腸管内で善玉菌を増殖促進することを目的として摂取されるプレバイオティクスは、善玉菌に加え、目的の菌ではない日和見菌や悪玉菌の増殖促進効果を持つことを明らかにしてきた。そこで、「善玉菌のみを増殖させる」、新しい機序を持つ次世代型プレバイオティクスの開発を目指す。本研究では、これまでにビフィズス菌を選択的に増殖する次世代型プレバイオティクス候補としてスクリーニングしたガラクトシル-beta-1,4-ラムノースが持つプレバイオティクス効果と、疾病予防・治療への応用利用可能性の解析を行った。これまでに、GalRhaにより増殖促進効果のあったBifidobacterium longum subsp. infantisと偽膜性腸炎の原因菌であるClostridioides difficileを試験管内で共培養するとC. difficileの生菌数が減少することを示してきた。今年度は、GalRhaとB. infantisによるC. difficile生育抑制機構の解明を目指した。その一部として、B. infantisの培養上清のpHがC. difficileの生育抑制に関与することを明らかにした。さらに、in vivoにおけるGalRhaとB. infantisの有効性の検証を目的として、マウスにGalRha、B. infantis及びC. difficileを同時投与し、経日的に臨床症状の観察および糞便中の細菌量の変化の観察を行った。その結果、GalRha投与によりマウスの糞便中のB. infantis量が増加し、C. difficileに感染すると通常観察される体重減少が緩和された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、試験管内におけるGalRhaとビフィズス菌の組み合わせを用いたC. difficile生育抑制機構の一部として、ビフィズス菌の培養上清のpHが関与することを明らかにした。また、動物体内におけるGalRhaとビフィズス菌の組み合わせの有効性として、C. difficile感染による体重減少を緩和することができることを明らかにした。また、これらの結果を含めて次世代型プレバイオティクスについて論文にまとめ、発表した(Gut Microbes, 2021, 13:1973835.)。以上より、本年度の研究は順調に進んでいると判断した。
これまでに、ビフィズス菌のGalRha取り込み機構として、トランスポーター遺伝子を同定したが、取り込み後の機構は未解明である。そこで、ビフィズス菌によるGalRhaの取り込み後の資化機構を解明することを目的として、糖質分解酵素遺伝子変異株・相補株を作製する。また、生体内におけるGalRhaのビフィズス菌選択的な増殖促進効果はこれまで検証を行ってこなかった。そこで、人工菌叢でのプレバイオティクス効果を検証することを目的として、試験管内で複数の腸内常在菌叢最優勢種、ビフィズス菌を混合して培養し、GalRhaを添加し、GalRha添加の前後での菌叢の変化を解析する。また、マウスにヒト糞便を投与し、ヒトの腸内細菌叢を保持させた後、GalRhaを投与し、経日的にマウスから糞便を回収し、次世代シーケンサーに供し、GalRha添加の前後での菌叢の変化を解析する。これらの手法を用いて、GalRhaのビフィズス菌選択的な増殖促進効果の検証を行う。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Gut Microbes
巻: 13 ページ: 1973835
10.1080/19490976.2021.1973835