研究課題/領域番号 |
21J14739
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨田 昇平 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | 熱水流動シミュレーション / 反応輸送解析 / 海底熱水鉱床 / 化学反応 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
海底熱水鉱床の鉱物沈殿を引き起こす物理的・化学的条件を明らかにするため、海底掘削・熱流束・熱水流体の地球化学分析などのデータが豊富に存在する沖縄トラフ伊是名海穴を対象に、鉱物化を考慮した熱水流動シミュレーション(反応輸送解析)を実施した。この反応輸送解析では、多孔質媒体中の気液二相流と熱の流れ、流体に含まれる溶存化学種の輸送と反応、および平衡あるいは速度論的な鉱物―流体の相互作用を取り扱うことができる。反応輸送解析を用いることにより、温度、圧力、pH、熱水の化学組成などの物理的・化学的条件の変化による硫化鉱物の沈殿を定量的に評価することができる。 現地での地震波探査および掘削データに基づき、キャップロック、堆積層、火山基盤岩、コンデュイット(熱水の上昇経路)からなる地質モデルを構築し、局所的な熱水の流れ(側方流動)を考慮した。また、シミュレーションのパラメータの数を絞り込むため、感度分析を実施し、浸透率や熱水の化学組成、pHなど、硫化鉱物分布の推定結果に大きな影響を与えるパラメータを特定した。シミュレーションに用いた数値モデルは現地での観測データに基づいて構築し、浸透率、深部熱水の化学組成などの不確実性の高いパラメータについては、熱水の温度、熱流束、噴出熱水の化学組成の計算値が観測値と概ね一致するよう、逆解析的に推定・調整した。シミュレーションにより、熱水はコンデュイットに沿って上昇して海底面から噴出するとともに海底下浅部で側方流動し、海水と混合することにより硫化鉱物が熱水噴出孔周辺および海底下浅部で層状に沈殿することが示された。本研究により、鉱床ポテンシャルの高い場所を定量的に示すことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、海底熱水鉱床を対象とした反応輸送解析手法を確立することができ、感度分析により硫化鉱物帯の形成に重要な要因(熱水の温度、pH、浸透率など)を明らかにすることができた。また、鉱物の種類・分布が海底掘削の結果と概ね整合的な結果であるモデルを構築することができ、鉱床ポテンシャルの高い領域を定量的に示すことができた。この成果は2022年に開催される日本地球惑星科学連合2022年大会にて発表を予定している。 さらに2021年度には、これまでの研究成果について査読付き国際誌に2本掲載され、Springer社のEncyclopedia of Mathematical Geosciencesに1本掲載、さらに2本の論文が査読付き国際誌にて査読中であるほか、国内外の学会にて計2回の研究発表を行っており、研究成果の公表についても順調であるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
現状のモデルで用いている熱力学データベースは、0℃から300℃の温度にしか対応しておらず、実際の海底熱水鉱床の熱水の観測温度(326℃)に比べてやや低いという問題点があった。これに対し、熱力学計算ソフトであるSUPCRT92を用いることで申請者が独自に熱力学データベースを構築し、0℃から370℃に対応した熱力学データベースを構築する。そして、新たに構築した熱力学データベースに基づいて、より精緻化したシミュレーションを実施する。 熱水の沸騰は、鉱床形成に重要な役割を果たすことが知られているが、相変化を伴うため、計算が非常に複雑になる傾向があり、計算の収束が課題であった。今後の研究では沸騰を考慮したシミュレーションを行い、さらに計算を精緻化する。また、掘削や地化学分析、熱流束、地球統計学的手法による鉱物分布の推定結果などと詳細に比較することで本研究成果の妥当性を評価するとともに、鉱床の生成条件に関する議論を深める予定である。
|