脳の作動原理や精神疾患の機序を解明する上では、細胞一つの活動だけではなく、ネットワーク全体の同期的な活動を計測する必要がある。しかし、マウス生体脳内の単一神経細胞の観察に用いられるin vivo二光子顕微鏡法は、脳表層の狭い領域を高精細に光イメージングするには適しているが、脳深部かつ広範囲での観察は困難であった。この原因の一つは、マウス生体脳の神経細胞を高解像度で観察するにあたって使用される、頭蓋骨の一部を除去してカバーガラスで置換して観察窓を作成する手術(オープンスカル法)にあった。 本研究では、新規光学素材とナノ材料の高分子超薄膜 (ナノシート)を併用したオープンスカル法の改良を実施し、昨年度までに覚醒マウス観察時の視野ブレと長期観察を実現する新規手法の骨子を確立した。本年度は、ナノシートと併用する新規光学素材の実用性の検証として、新規手法を用いて作成した観察窓の生体組織への影響を免疫染色法を用いて評価した。その結果、ナノシートを用いることで炎症の度合いが低いことを確認した。また、より広視野での観察の実現に向けて大脳皮質以外の領域に新規手法を用いることにも成功した。一方、深部イメ―ジングへの応用として、光学収差を低減する技術と併用することにより、脳深部領域における観察像をより高いSignal-Background 比で取得することに成功した。これらの成果については、現在原著論文を投稿中である。
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