数種類の癌細胞系においてApelin過剰発現細胞でコントロールと比べて転移が増加し、APJノックアウト細胞においては転移が減少するという結果がマウスの尾静注転移モデルにおいて確認された。また興味深いことにAPJノックアウト癌細胞はIn vitroにおいては増殖能が抑制され、浸潤能だけが亢進することが各癌細胞にて示された。このことは、Apelin-APJシステムが転移におけるEMTと関連していることを示唆するものであった。その中で最終年度、B16マウス悪性黒色腫の皮下移植モデルを解析したところ、APJノックアウトB16腫瘍とコントロールのB16腫瘍で、腫瘍体積に有意な差はなかったが、APJノックアウト腫瘍では血管密度が低下しているにも関わらず腫瘍のサイズが保たれることが明らかとなった。つまり、腫瘍血管新生以外の血流機構によって腫瘍成長を維持している可能性が高いと推定されたため、メラノーマなどに特有の病理学的現象である「血管模倣」に着目し、APJがこの血管模倣の生成に関与していることを実験的に証明した。次に、これらの形態変化は癌細胞のEMTによって誘導されているのではないかという仮説を検証した。結果、TGF-βの内在的な発現をリアルタイムPCRで確認すると、間葉系の形態を示すAPJノックアウト細胞で有意に上昇していた。また、代表的な間葉系のマーカーである転写因子Zeb1の顕著な上昇をAPJノックアウト細胞で認めた。このZeb1はアペリン過剰発現細胞においては著明に抑制されており、アペリンAPJ系とEMTを促進する転写因子であるZeb1の強い関連が示された。TGF-β受容体阻害剤を用いた上流のシグナル解析では、APJのシグナルはTGF-β/Smadシグナルとは独立したEMTシグナル伝達機構を有する可能性が示唆された。
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