研究課題/領域番号 |
21J15058
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
旭 拓真 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 免疫学 / 免疫老化 / ナチュラルキラー細胞 / 自然リンパ球 / がん免疫 |
研究実績の概要 |
加齢による免疫系の破綻はがんを含む様々な疾患の要因となるが、その細胞集団レベルでの機序は十分に理解されていない。がん細胞を始めとする異常細胞の除去には、グループ1自然リンパ球 (group 1 innate lymphoid cell, G1-ILC) が重要な役割を果たしている。これまでに申請者らは加齢に伴って枯渇するG1-ILCの分画を新たに同定し、それらが高い細胞傷害性と抗腫瘍効果を持つことを示した。そこで本研究では、この新規G1-ILC分画の恒常性や機能が、生体内でどのように制御されるのか解明することを目的とした。 インターロイキン15はG1-ILCの分化・維持に必要なサイトカインである。申請者らは複数の組織特異的なIL-15欠損マウスを用い、新規G1-ILC分画における恒常性維持機構の解析を行った。その結果、新規G1-ILC分画は主に胎児期に分化したのち、成熟個体において胎児期とは異なるニッチに依存して維持されるものの、その数は減少していくことが明らかとなった。次に、G1-ILCにおける網羅的な遺伝子発現解析および遺伝子共発現ネットワークの構築を行い、新規G1-ILCにおいて特異的に発現する遺伝子が含まれるクラスターを同定した。この遺伝子クラスターにおいてエンリッチメント解析を行ったところ、いくつかの代謝パスウェイ、転写因子との関連性が示唆された。このうち、あるヒストン修飾酵素について、そのアゴニズムにより新規G1-ILCの細胞数と機能が上昇する可能性と、逆にその欠損が新規G1-ILCの減少と機能破綻をもたらす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規G1-ILC分画について、他のG1-ILCとは異なる組織内ニッチへの依存性があることを見出し、その恒常性維持機構の一端を明らかにした。さらに網羅的な遺伝子発現解析から、新規G1-ILCの加齢に伴う枯渇に介入できる可能性のあるパスウェイを見出した。今後、このパスウェイの作用機序およびがん免疫への貢献について解析を進めるため、遺伝子欠損マウスの準備等も並行して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに新規G1-ILCの特徴と関連性の深い因子として同定したヒストン修飾酵素Xについて、その下流の詳しい作用機序の解明と、がん免疫に対する寄与の評価を行う。具体的には、酵素Xのリンパ球特異的な欠損マウスを交配により作製し、新規G1-ILCにおける表現型を調べる。このマウスにおいて肝がん転移モデルを行い、抗がん免疫に対する影響を評価する。次に、このマウスにおいて網羅的な遺伝子発現解析を行い、酵素Xによる影響を分子レベルで明らかにする。また、遺伝子発現解析とともに網羅的オープンクロマチン領域解析を行うことで、酵素Xによるエピジェネティックな免疫制御機構を解明する。こうして見出したメカニズムが、野生型マウスの加齢個体において破綻するのか否か、比較解析を加える。さらに、酵素Xに対して特異的な作用を持ついくつかのアゴニストを投与し、加齢個体におけるがん免疫の低下を改善できるのか検討する。
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