研究実績の概要 |
加齢による免疫系の破綻はがんを含む様々な疾患の要因となるが、その細胞集団レベルでの機序は十分に理解されていない。がん細胞の除去には、グループ1自然リンパ球 (group 1 innate lymphoid cell, G1-ILC) が重要な役割を果たしている。これまでに申請者らは加齢に伴って枯渇するG1-ILCの分画を新たに同定し、それらが高い細胞傷害性と抗腫瘍効果を持つことを示した。そこで本研究では、この新規G1-ILC分画の恒常性や機能が、生体内でどのように制御されるのか解明することを目的とした。 インターロイキン15はG1-ILCの分化・維持に必要なサイトカインである。申請者らは複数の組織特異的なIL-15欠損マウスを用い、新規G1-ILC分画における恒常性維持機構の解析を行った。その結果、新規G1-ILC分画は主に胎児期に分化したのち、成熟個体において胎児期とは異なるニッチに依存して維持されるものの、その数は減少していくことが明らかとなった。次に、G1-ILCにおけるRNA-seqおよび遺伝子共発現ネットワークの構築を行い、新規G1-ILCにおいて特異的に発現する遺伝子クラスターを同定した。この遺伝子クラスターにおいてエンリッチメント解析を行ったところ、いくつかの代謝パスウェイとの関連性が示唆された。このうち、あるヒストン修飾酵素のアゴニズムにより新規G1-ILCの細胞数と機能が上昇することが示唆された。そこで、このヒストン修飾酵素のG1-ILC特異的な欠損マウスを作出・解析した。その結果、このヒストン修飾酵素の欠損により新規G1-ILCの数と細胞傷害性が低下することが分かった。以上の結果から、新規G1-ILCの分化、維持、機能が従来のG1-ILCとは異なること、特定のニッチや酵素活性への介入で、それらの加齢による枯渇に対して介入できる可能性が示唆された。
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