研究課題/領域番号 |
21J15102
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩田 貴帆 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 自己評価力 / 評価練習 / ピアレビュー / 教育方法の効果 / 学生の自律性 |
研究実績の概要 |
2021年度は、大きく分けて2つの研究を実施した。1点目は、学生の自己評価力を育成する教育方法の1つである評価練習に関する実証研究である。2点目は、自己評価力に関する理論的な検討である。 1点目の実証研究は、ある大学の授業担当者と受講生の研究協力を得て、実際の授業の一環として教育方法を実施し、得られたデータを分析するものである。まず、以前の調査で得られていたデータ(2018年度後期と2019年度後期の授業において評価練習を実施したデータ)を分析することによって知見を得られる可能性があったため、データの分析や研究室内外での議論を通して様々な検討を行った。その結果、このデータから得られる知見に限界があることが判明したため、改めて授業担当者と受講生の協力を得て、再度調査を実施した。具体的には、異なる2つの条件で評価練習を実施し、自己評価力や学習成果物の質について両群を比較した。条件の違いによる受講生に不利益が生じないような設計で調査を実施した。分析の結果、先行研究では明らかになっていなかった知見が得られたため、現在、投稿論文を作成中である。 2点目の理論研究は、これまでの研究で開発してきた教育方法「協議ワークを取り入れたピアレビュー」と、上記の「評価練習」という2つの教育方法を包括する授業設計モデルをまとめていくにあたり、その前提として重要な自己評価力に関する理論的な検討を行った。具体的には、コンピテンシー概念と関連付けて自己評価力の枠組みを構築すべく、幅広く国内外の文献調査を行い、仮説の生成を試みた。能力の〈所有論〉〈関係論〉という視点から自己評価力の両面性を捉える枠組みなどを仮説的に素描し、研究室内で報告したが、その妥当性については引き続きの検討の余地を残した。修正の方向性として、能力論としてだけでなく授業論として検討を行うことなど、多面的に探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に実証研究において進展があった。新たな調査を計画し、順調にデータを収集することができた。これは、本研究の意義について調査協力者の理解を得ることができ、多面的な協力を受けることができたという理由が大きい。得られたデータの分析にあたっては、高度な多変量解析を含めて、複数の分析手法を実施したことにより、より妥当で有用な知見を導くことを探究した。こうして得られた研究結果を、近日中に論文投稿を行う。 他方の理論研究においては、論文投稿に至るほどの知見を見出すには至っていないが、自己評価力という概念の特徴を、様々な関連理論と照らして多面的に探索した。そのプロセスで得られたことは、上述の実証研究の進展の一因となった。 加えて、大学教員対象の授業に関するワークショップで講師を務める機会などを通じて、「授業者がどのように授業を計画・実施すれば学生の自律性を促すことができるのか」について参加者とのディスカッションを行い、考察を深めた。 以上のことを踏まえて、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、「育成された自己評価力は本当に自律的な学びに繋がるのか」を明らかにする実証研究を行う。これまでの調査で得られているデータと、必要に応じて新たに調査を実施し得られたデータを分析する。 また、これまでの研究成果を統合し、学生の自己評価力を高め、自律性を促すための授業方法をモデルとして提示する。統合にあたっては、過去に発表済みの研究成果にさらに追加分析や考察を加えることによって、「授業者がどのように授業を計画・実施すれば学生の自律性を促すことができるのか」に関する有益な示唆を導くことを目指す。
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