研究課題/領域番号 |
21J15207
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
谷口 雅弥 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 範疇文法 / 定理証明支援系 / ランベック計算 / 漸進的構文解析 / Xバー理論 / 組合せ論理 / 継続渡し形式変換 |
研究実績の概要 |
今年度は、CCGにおけるQコンビネータによるインクリメンタルな導出、木構造データベースからの対話的文法抽出、範疇文法の形式化、継続と多相性を持つランベック計算に関する研究を行った。 研究代表者は、組合せ範疇文法に対して新たな文法規則を提案し、組合せ範疇文法が漸進的構文解析に適用可能であることを実験的に示した。また、対話的文法抽出に関する話題では、文法抽出における主句の欠落という現象について研究し、その解決策を提案した。 この現象は、木構造データベースから文法を抽出する際に生じる問題であり、この解決策によって、文法抽出の精度が向上することが期待される。範疇文法の形式化に関する研究では、範疇文法の基本的な概念や演算子を明確化することで、より正確な理論体系を定理証明支援系Isabelle/HOLによって構築した。範疇文法は組合せ範疇文法の根幹となる文法の理論であり、各々の文法規則は言語観察に基づき自由に追加されてきた。この研究によって、範疇文法の形式的な定義が明確になり、範疇文法と追加される文法規則との間の整合性が検証しやすくなった。ラムダ計算における継続の概念をランベック計算に導入し、継続渡し形式変換がランベック計算の規則から自然に導出できることを示した。さらに、継続の答えカテゴリは、文全体が決定されたときに与えられるため、多相的なカテゴリを導入し、多相的なランベック計算において継続渡し形式変換を一般化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構文木から文法規則を抽出するプロジェクトはおおむね完了した。Stanford CoreNLPによって生成された構文木から文法規則を生成し、その導出例を示すデモンストレーション・ソフトウェアが完成した。現実のツリーバングコーパスから文法規則を行うことは、来年度以降に繰り越すことになった。 複数の統語範疇を許容する接続詞のような文法規則のために、すべての文法規則を列挙する代わりに、多相性(polymorphism)を用いて単一の規則に抽象化する手法を提案し、その文法理論を多相ランベック計算として形式化し、導出可能性について調査した。 以上の手法から、新たな文法規則の抽出を試みたが、この実験では文法抽出段階で主句の欠落が発生することが判明したため、文法規則の抽出を中断し、主句が欠落する現象の解決策を調査した。その結果を国際学会KICSSにて報告した。 範疇文法にまつわる課題の解決のためには範疇文法を形式化する必要があると考え、意味解析に進まずに定理証明支援系による形式化作業を進めた。 構文解析の形式化が完了した段階で、次に計画していた漸進的構文解析のための文法規則の調査を開始し、実験的にQコンビネータが有効であることを確認し、国際学会LENLSにて報告した。 研究遂行にあたっては多少の課題が生じたが、研究計画の全体の流れに沿って漸進的構文解析に進むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、自然言語処理における漸進的構文解析に関する研究を進めている。範疇文法は、自然言語処理に用いられている文法の一つであり、構文解析・意味解析を同時に行うことができるという優れた性質を持っている。そして、範疇文法の証明論的性質の分析を進めることで、自然言語処理の漸進性を解明し、解釈可能な自然言語処理技術の開発を推進している。そのために、範疇文法についてより正確な理論体系を構築し、漸進的な自然言語処理の精度向上を目指す。 範疇文法の証明論的性質を明らかにするために、範疇文法の導出規則を自然演繹からシーケント計算へ方針転換を行う。この方針転換のために、範疇文法のランベック計算の性質を調査していく。とくに、継続という概念をもつランベック計算についても積極的に取り組んでいく。 今年度、実験的にQコンビネータが漸進的構文解析に有効であることを示した。その計算機科学的に一般化したときの概念である継続渡し形式変換についても調査を行う。この調査のために、前年度の研究成果をもとに、定理証明支援系を使用したフレームワーク上で検証された構文解析器を実装し、その検証を行う。検証された構文解析器は、範疇文法に基づく構文解析において左再帰構文木の存在と漸進的解析可能性が理論的に証明され、その導出可能性を定理証明支援系によって検証する。
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