研究課題
本研究は、乳汁中「脂質の質」に焦点を当て、乳汁栄養における生理活性脂質(脂質メディエーター)の意義を解明するものである。これまでに、ヒト母乳中の脂質メディエーターのリピドミクス解析を行い、そのプロファイルの特徴を明らかにした。特に、エイコサペンタエン酸(EPA)代謝産物で炎症収束作用のある18-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(18-HEPE)が豊富に含まれることを明らかにした。さらに、乳腺の発達や泌乳量の増加に伴って乳房組織において発現量が上昇する生理活性脂質代謝関連酵素として、リン脂質からリゾリン脂質と脂肪酸を産生する細胞質型ホスホリパーゼA2(cPLA2)のサブタイプであるcPLA2ζを見出した。そこで本年度は、乳房組織におけるcPLA2ζの発現細胞の同定と酵素特性の解析、遺伝子改変マウスにおける表現型の解析を行なった。in situ hybridizationと免疫組織染色から、泌乳期の乳房組織中でcPLA2ζは主に乳腺上皮細胞に発現することを確認した。また、in vitroの酵素活性測定により、ω-6系脂肪酸のアラキドン酸(AA)や、ω-3系脂肪酸のEPAとドコサヘキサエン酸(DHA)を特異的に遊離することを明らかにし、個体レベルではメスのPLA2ζ欠損マウスでは野生型に比べて体重が軽いことを見出した。次年度は、乳汁中脂質の質の決定や次世代の健康に影響を及ぼす脂質メディエーターを同定し、その鍵となる代謝系の解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、cPLA2ζの発現局在を明らかにすることができた。酵素活性については、代謝産物である脂肪酸の特異性を明らかにすることができた。また、遺伝子欠損マウスを解析した結果から、全身性の表現型が明らかとなり、研究は概ね順調に進行していると言える。
2022年度は、精製リコンビナントcPLA2ζを準備し、酵素反応速度論に基づく酵素活性特性の詳細を明らかにする。2021年度では、代謝産物のひとつである遊離脂肪酸の同定に成功したので、本年度は、もう一つの代謝産物であるリゾリン脂質を同定し、基質特異性についても明らかにする。また、マウス乳汁や乳房組織のリピドミクス解析から、AA、EPA、DHAから生合成される脂質メディエーターの探索を行う。さらに、メスの遺伝子欠損マウスの体重軽減の原因を生化学的解析より明らかにすることと合わせて、乳房組織における乳腺の発達や乳汁産生、乳汁射出に対するcPLA2ζの意義の解明を目指す。
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脂質生化学研究
巻: 63 ページ: 142-143