研究実績の概要 |
本研究は、乳汁中「脂質の質」に焦点を当て、乳汁栄養における生理活性脂質(脂質メディエーター)の意義を解明するものである。これまでに、乳腺の発達や泌乳量の増加に伴って乳房組織において発現量が上昇する生理活性脂質代謝関連酵素として、リン脂質からリゾリン脂質と脂肪酸を産生する細胞質型ホスホリパーゼA2(cPLA2)のサブタイプであるcPLA2ζを見出した。さらに、メスのcPLA2ζ欠損マウスでは野生型に比較して体重が軽いことを見出した。 本年度は、リコンビナントcPLA2ζを作製し、より詳細なin vitro酵素活性測定を行なった。その結果、不飽和脂肪酸を広く遊離する活性を有することが明らかとなった。リン脂質に対しては、ホスファチジルコリン(PC)に対するホスホリパーゼA2(PLA2)活性が最も高かったのに加え、多価不飽和脂肪酸含有リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)に対する一定のリゾホスホリパーゼ(LysoPLA)活性も有することが明らかとなった。さらに、マウス乳汁の搾乳方法と液体クロマトグラフィ質量分析計(LC-MS/MS)による脂質解析の方法を確立し、cPLA2ζ欠損マウスの乳汁を解析したところ、特定の乳汁中の脂質分子がcPLA2ζ欠損では野生型よりも減少していることを見出した。全身性の表現型と詳細な機序について、更なる検証が必要である。 また、本研究の基盤となった、ヒト母乳中と育児用調製粉乳の原料となるウシ生乳を比較することで明らかにしたヒト母乳中脂質の特徴と、ヒト乳腺炎において変化する特定の脂質メディエーターが乳腺炎の新規バイオマーカーとなる可能性について発表した(Nagasaki Y., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2022)。
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