本研究の目的は、国際比較調査及びアーカイブデータの二次分析により、日本人のインクルーシブ教育に対する態度の特徴と、そうした態度を規定する心理・社会的要因を明らかにすることにあった。加えて、実験研究を通じ、上述した心理・社会的要因とインクルーシブ教育に対する態度の因果的関係を検証するとともに、肯定的影響を与える手立ての特定も試みた。 令和3年度には、インクルーシブ教育に対する日本人の態度の定量データを収集し、その学術的研究知見の蓄積を試みた。具体的には、1)インクルーシブ教育を実施する立場にある学校教員が、インクルーシブ教育を望ましい教育として評価する一方で、その実現可能性は低く、障害のある児童生徒にとっても障害のない児童生徒にとっても有益な教育になり難いと評価することを明確にした研究や、2)インクルーシブ教育に対する態度を規定する一つの要因である「社会的寛容性」を測定するための尺度の作成とその信頼性・妥当性を検討し、この尺度によって測定される人々の社会的寛容性がインクルーシブ教育に対する肯定的な認識を促す可能性を示した研究を挙げることができる。また、3)国際教員指導環境調査(TALIS)やWorld Values Surveyのデータを用いた二次分析の結果から、他者一般に対する信頼の度合いが低い国ほど、特別支援教育に関する教員の能力不足が問題視されている可能性についても明らかにした。 さらに、4)インクルーシブ教育に対する態度に肯定的な影響を与える手立てを検討するための実験を実施し、「将来に思いを馳せること(具体的には、長い目で見れば、自分自身も障害者福祉の恩恵にあずかる可能性があると認識すること)」が一つの手立てになる可能性を提示した。これらの知見は、心理学分野に対する学術的意義のみならず、障害者の社会包摂に関する障害科学一般に対してもインプリケーションを有する知見と言える。
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