研究代表者らのこれまでの研究や先行研究の結果から、低酸素環境と暑熱環境を組み合わせた「暑熱・低酸素環境」での運動時には、無酸素性エネルギー利用の亢進や活動筋での血流量の増加が示唆されている。無酸素性エネルギー利用の亢進は糖利用の増加を惹起し、インスリン感受性の改善に貢献すると考えられる。また、活動筋での血流量の増加は血管内皮細胞に対する機械的刺激(ずり応力)となり、動脈硬化度の低下や血管内皮機能の改善に繋がることが期待される。 本研究では、暑熱・低酸素環境でのトレーニングが糖代謝・脂質代謝、血管機能などの生活習慣病関連指標に及ぼす効果を明らかにし、健康増進に資するトレーニングプログラムを新たに提案することを目的としている。 現在までに、本研究の実施に必要となる測定手技の習得、予備実験、実験参加者のリクルートが終了した。本研究では血管機能を評価するため、超音波診断装置を用いた血流依存性血管拡張反応の測定手技を習得する必要があり、ここに多くの時間を費やした。 予備実験では、成人男性を対象に低酸素環境(室温20℃、酸素濃度14.6%)または暑熱・低酸素環境(室温30℃、酸素濃度14.6%)において30分間の自転車ペダリング運動(最大酸素摂取量の50%に相当する強度)を行い、運動中の心拍数、血中酸素飽和度、主観的疲労感および暑熱感、運動前後での血流量、血管径、血流依存性血管拡張反応を測定した。暑熱・低酸素環境での運動時には低酸素環境と比較して、心拍数および主観的暑熱感が高値を示した。一方で、運動時の血中酸素飽和度および主観的疲労感は低酸素環境と同程度であった。運動終了直後の血流量は暑熱・低酸素環境が低酸素環境と比較して高値を示した。現在は本実験を実施している段階である。
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