目的①:前年度に見出したGSTA4の発現調節に関して、ヒトHSC株LX-2細胞を用いて検討した。レポーターアッセイより、TGF-β存在下においてcaffeine(CAF)とPGE2併用時にGSTA4の転写を制御する転写因子NRF2の活性が増加することが示唆された。さらに、免疫染色によりTGF-β存在下においてCAF とPGE2併用時にNRF2の核移行が促進することが示唆された。NRF2はKEAP1により抑制性に制御されるが、p62はリン酸化と凝集体形成により活性化し、KEAP1の分解を促進させることが報告されている。そこで、マウス初代培養細胞HSCにおける総p62およびリン酸化体p62の凝集体形成を免疫染色により観察した。その結果、CAF またはPGE2の単独処置とは異なり、CAF とPGE2併用時には総p62およびリン酸化体p62の凝集体形成が確認された。これらの結果より、HSCにおいてCAF とPGE2の併用処置はp62のリン酸化および凝集体形成を促進し、これによるNRF2の核移行および転写促進を介したGSTA4の発現亢進が、HSCの活性化を抑制することが示唆された。 目的②:前年度に得られた知見をもとに、脂肪酸負荷による肝実質細胞のアデノシン(ADO)代謝への影響を解析した。その結果、AML-12細胞においてパルミチン酸とオレイン酸の処置により、細胞外ADO産生酵素CD39の増加、ADOトランスポーターENTの減少傾向、培地中ADO濃度の増加がみられた。さらに脂肪酸負荷AML-12細胞をマウス初代培養細胞HSCと非接触状態で共培養するとHSCの活性化が促進した。これらの結果より、肝実質細胞における脂肪蓄積はADOの産生増加および代謝減少を引き起こし、これにより遊離ADO濃度が上昇することでHSCの活性化を促進させ、肝線維化を誘発する可能性が示された。
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